STUDIO、nomaに近くて、遠くて、近い店

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他の店と比べて「近い店」なんて叱られるかもしれないけども、この距離感をご覧頂ければお許し頂けるかと。オレンジの屋根の建物にnomaが入っている。

レストランへ来てわざわざよそんちの写真を撮るのは失礼なことと思いつつ、あまりの距離感に思わず外に向けてカメラを構えてしまう。お店の人も「ああ、あの”小さく”見える………」とニヤッと笑う。どうもここのお約束らしい。

運河がなければnomaへはたぶん徒歩5分。現在開発中の市北部の新しい港湾地区だ。
nomaのある岸とStudioのある岸を繋ぐための橋が、夏休み期間中だからか建設途中で止まっている。4年かかってもまだ出来ないと聞いた。前回(私がnomaへ行った2012年)見たときからずっと止まっているようにさえ見える。
その工事の進まなさ具合は何となく、お互いの地区の特性が混じり合うのをなるべく先延ばししたいという両岸の人たちの思いのあらわれのようにも見えてしまう。ボーダーレスになれば交通は便利になるだろうが、良いことばかりではない。

Studioのシェフ、トーステン・ヴィルゴードさんはnomaのラボで約8年間メニュー開発を担当して2014年に独立、この店をオープンした。ほぼ開業当初からのnomaのメニュー作製に深く関わっていたことになる。

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手が足りないとカウンターのこちら側からも盛り付けるの図。
シェフは奥のストーブ前ではなくフロントの盛り付け台にいる。

Studioのメニューは5品コースと7品コース。どちらもその前に何品かのアミューズがつく。
そのアミューズは、どれもプレゼンテーションや見た目と味のギャップで驚きを誘うものばかり。そしてそれが味とちゃんと両立しているのは貴重だ。
そのうちのいくつかを以下に。

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すいか。
ただのすいか…ではもちろんなく、柚子ジュースが塗ってある。
「すいかと柚子のジュース」なら驚かなかったと思う。すいかが原型のままなのがポイントかもしれない。柚子のジュースが載っているだけで、すいかが全く変わっているという感じになる。すいかに塩くらいしかかけない日本人の感覚としては、初っ端から固定観念を吹き飛ばされる。

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魚卵のシュークリーム
グージェールがあるのだから、塩味系のシューは初めてではないはずなのに、これは一同夢中で、というか、瞬殺のひと皿。魚卵はぎりぎりまで薄味。チーズクリームも淡い味で、軽くホイップされている。

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牡蠣、ディル風味、グリーンストロベリー、コリアンダーシード、タマネギの花
生牡蠣も料理だ!と感じるひと品。牡蠣に添える酸味が複数含まれている。この、豊富なベリー類や複数のビネガー、ときには蟻など(!)何種類もの酸味使いの技がノルディック料理全般の特徴だと感じた。

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イカ、ムール貝のソースに味噌、パセリのソース
冷凍して極薄に削ったイカにコクのあるムール貝のソースが合いすぎる。味噌などの発酵調味料遣いはヴィルゴードさんの興味のある分野らしい。Passage53の佐藤伸一さんの、あのイカとカリフラワーを唐突に思い出す。

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レタスの芯、エスカルゴソース、魚はチュルボ、ケッパー
チュルボは写真からは見えておらず、付け合せの下に隠れている。魚のように見える手前のものはレタスの芯。
魚?と思って食べると魚でないトリッキーなひと皿。トリッキーだけどこのレタスの火入れのジャスピンなことよ!

コースを今回一通り頂いてみて、コース構成や食材へのアプローチは3年前(2012年)に頂いたことのある「あのときのnoma」を思い起こさせ、そうでありながら、出来上がった味そのものは、当たり前のことながら、ずいぶん違うと感じる。レネの目指していた「数年前の」nomaのメニューと、ヴィルゴードさんの「今の」メニューでは、隔たりがあるのは当然だろう。

……いや、当然なのだろうか?
フランス料理や日本の懐石料理で、たった数年でそんなに感じが変わるものだろうか。

今回北欧のレストランを何軒か訪れて強く感じたのは、モダンノルディック料理の変化・進化の速さだ。
フランス料理のように体系づけられていない、歴史の浅いモダンノルディック料理は、個々人のシェフの試行や時代の流行そのものが体系というか、試行が重なるにつれて、これから全く異なる料理群になっていくのだなと思う。
その行き先は誰にもわからない。北欧料理はスペイン料理よりもフランス料理から遠く、その分、自由さがあるのかもしれない。

5年後にはきっと、モダンノルディック料理は全く異なる様相になっているのだろう。
それを私たちはいま、リアルタイムで見ている。

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