パリ13区「L’Auberge du 15(ローベルジュ・デュ・キャンズ)」は、ここ数年でぐっと増えたフランスの日本人シェフのレストランのなかでも、料理人さんや友人知人がこぞって絶賛している店だ。
シェフは守江慶智さん。
料理人さんや友人知人と書いたが、双方の料理評が一致することはあまりない。プロとそうでない人では視点が異なるし、好みの問題だってある。それが「どの人も褒める」というのはなかなかないことで、ブログや雑誌で見る料理写真の美しさもあって、興味をひかれていた。
守江慶智さんは1980年愛媛生まれ。辻調フランス校から三田のコートドールなどを経てフランスへ、パリではプチ・ヴェルド、アンコール、2014年よりオーベルジュ・デュ・15のシェフに就任している。「ジェネレーション・イナキ」として掲載したメディアもあり、フランス料理界の若い世代で注目の一人だ。
料理はほぼ守江さんお一人で作っているらしい。最近若い料理人が入られたようだ。
今回のメニューはおまかせで。85ユーロ。
Veau de lait de Corrèze / chips chou-kale / moule Mont St Michel / noisette du Piémont / noisette fraîche(仔牛のタルタル、燻製オリーブオイルのエミュリュション、ノワゼットにピエモンテのノワゼット)
Cèpes des Vosges / seiche de BreTAGSne / salicorne / mashua-citron combawa / quinoa-perle du Japon(セップ茸、イカ、サリコルヌ、キノア)
Bonite St Jean de Luz / fenouil-mûres sauvages / tomatillos-guindais-bergamote(サン・ジャン・ド・リュズの鰹)
Tourteaux / chou-fleur / potimarron / gelée de tige de coriandre / oxalis(コリアンダーの茎から取ったジュレとカニ、カリフラワー、フェンネル、オキザリス)
Turbot de BreTAGSne / jus de langoustine / huile de angélique / carotte / girolles / sparassis / haricot coco / tétragone émulsion aux pins(チュルボ、ジロール、アンゼリカのオイル)
Grouse d’Écosse “ballottine” / cèpes / céleri rave / arroche / poireaux / lard de cochon ibérique / jus à l’huile de noix(グルーズ、根セロリ、イベリコ豚のラルド)
Mousse coco / ananas-yaourt / TAGSette mousse châtaigne / mirabelle / gentiane
Mignardise
Pâte de fruit de la passion
Dacquoise au café
Compote de figue / gelée de verveine / sorbet pastis-poivre timut
Figue de soliés bourjassote
仔牛のタルタル。
最初からいきなり濃い。
いや、味つけがではなく、素材の積み重ねが。
複数の素材を組み合わせて主張のある味を出す、構築的でクラシックなフランス料理だ。
守江さんの実家の愛媛の夏をイメージしたものだという。ケールが緑が深い夏の山で、オリーブオイルの泡が雲。
仔牛とムール貝の組み合わせは質が異なる旨みの組み合わせ。肉と貝ってなかなか一緒には出さないかも? どちらが主でどちらが従ではなく、対等にぶつかっている。なのに食べるとちゃんとおさまった感じになっているのはなぜだろう? ノワゼットのオイルと燻製オリーブオイルがまとめ役になっているからか。
手法は構築的でクラシックでも、素材の組み合わせ方に新しさを感じる。そして食材の種類がとても多い。ひと皿に、たぶん10種類ではきかない。
うっかりすると焦点がぼけてしまうくらいの種類だ。
盛り付けが平面的に広がっているボニート(サン・ジャン・ド・リュズの鰹)。
食材が上下に重なっていないので、端から食べると、一見とっちらかった印象のある料理だ。
鰹はタタキのような風合いで、付け合せがミョウガのような香り。その部分を食べるときだけ日本人の私にとって一瞬和食を食べている感覚になるからかもしれない。でも、それ以外の部分を食べるとフランス料理なので、食べながら混乱してくる。
作っているのがフランス人だと「日本インスパイアの料理」と片付けてしまうところだが、守江さんだからなあ…これってわざとなんだろうな。頭で楽しむ料理だ。
これだけ多く食材を用いて、とっちらかった感じがほとんど無いのはなぜだろう?
その理由はすぐ解けた。
守江さんの料理には、理由無く入れられた食材がひとつも無いのだ。
これだけ食材が多くて、そのどれもが初めて出会う組み合わせで、しかも酸味・甘み・苦味・うま味などの味や食感のバランスが計算されているのがわかる。
鰹のひと皿は、あとから伺うと、本当は2皿に分けて出す料理だったとのことで、この皿のみ「とっちらかった印象」は気のせいではなかったようだ。
Cèpes des Vosges / seiche de BreTAGSne / salicorne / mashua-citron combawa / quinoa-perle du Japon(セップ茸、イカ、サリコルヌ、キノア)
セップ茸のスライスにイカにサリコルヌ(厚岸草 あっけしそう)のアイス。
別名シーアスパラガス。海岸近くに生えるので塩分を多く含む。
常温のセップとイカに冷たいアイス、ぬめりのあるイカにぷちぷちのキノア。
どちらも対照的であり、同時に繋がってもいる。
例えば赤と緑が補色であるように。
メインは雷鳥(スコットランド産グルーズ)。訪問が9月だったので、ジビエが頂けるとは意外だった。
ここまで淡く、軽い色(味は淡くも軽くもないのだが)の前菜が続いたところでこの重しのひと皿。付け合せの根菜類の土くささに負けていない。
守江さんの料理を指して「クラシックとモダンが合わさった」という表現を見るが、これで納得。
食材の組み合わせ方はユニークで新しく、料理は構築的で正統派、最後に「肉食べた」の重しもある。
だからクラシックファンにもモダン愛好家にも響くのだ。
来年、再来年の守江さんの料理をまた食べてみたいと思った。フランス遠いけど。
先日発表されたゴー・ミヨー2016版で、Auberge du 15は3トック(帽子)16点(20点満点)だった。
記事によると「4つ帽子に近い3つ帽子の料理」とのことで…おめでとうございます!
Auberge du 15
15 rue de la Santé
75013 Paris
Tel : +33 1 47 07 07 45
昼12:00 – 13:00
夜19:30 – 20:30
日月休
Vogueのバックナンバーは、守江さんの記事があるみたい。
GQのバックナンバーは、「パリのレストランを支える24人の日本人シェフ」。ダイジェストはこちらでも。