2016年に訪れたレストランのなかから、衝撃を受けたあの料理…と鮮明に思い出せるひと皿のメモ。
自分自身のコンディションや好みなどとうまく合って印象深かったひとつの例として、ご覧いただければ幸いです。
2016年に訪れた海外の主な都市は、中国(上海)、マレーシア(ランカウイ)、香港、ブータン、デンマーク(コペンハーゲン)、イタリア(ボローニャ・シチリア)、台湾(台北・台中)、タイ(チェンマイ・バンコク)。
国内では、函館、大阪、北九州、博多、有田、鹿児島など。
このうち2つが料理人さんの結婚式によるもの。おめでたい席に連なることができたのは嬉しい出来事でした。
とりあげたのは海外5皿、国内10皿。
掲載は順不同です。
海外編
Pizzaiola:merluzzo all’affumicatura di pigna(La Madia・シチリア)
シチリア・リカータにあるミシュラン2つ星「La Madia」コースの最初に出たシンプルなピザ。
ピザの真ん中は、たらと、しゃきしゃきの食感を残したじゃがいも。
普通っぽい見た目から生まれる、洗練された味のギャップ。
これを食べるためにまた行きたいと思った。
リカータはシチリアの南端にあり、取り立てて観光地ではないが、Madiaに行くためだけにこの地を目指す人は多いという。
Steamed king crab and egg yolk sauce(noma・デンマーク)
主な食材はタラバガニ、卵黄、肉醤。
味が淡白な蟹と、濃厚なソース。
ソースの味は蟹味噌に似ていて、しかもベースが肉なので微妙にそこからずらされている。
肉醤は肉を発酵させているのだそうで、発酵の味の豊かさを実感した料理だった。
小皿の前菜と魚介盛り合わせ(Osteria Antica Marina・シチリア)
シチリアで、モダンなアプローチで衝撃を受けたのがMadiaならば、オーソドックスな料理の完成度に驚いたのがこちら。
アンティカ・マリーナのお昼は何種類かのコースがあり、小皿の前菜がついたコースを頼むと、もれなく魚介系の前菜がついてくる。そのどれもが新鮮で、気が利いている。
中央のムール貝のような小さな貝は、日本語で「嫁が傘」というらしい。
うまみが濃くて、いくらでも食べられそうな味だった。
Grilled Blue River prawn with tamarind sause and steamed with egg custard(Khao・バンコク)
カオとはコメ(ごはん)のこと。
バンコクで初めてガストロノミックな料理を頂いた。かつてはバンコクのレストランといえば、行きたいと思えるものは屋台かホテル内くらいだった。Gagganもできたし、時代は変わったもんだ。
オリエンタルバンコクのレストランに長年勤めていたパタヤ出身のシェフVichit Mukura氏の、現在は1卓のみのレストラン。
ひと皿にエビのグリルとエビのフランを盛る。フランに唐辛子系の辛味が足されて、エビのうまみと合わさる。
タイ料理を、基本ははずさずにガストロノミックに進化させるとこうなるという幸せな例だ。
淮山蒸扎(福臨門 湾仔・香港)
淮山蒸扎とは鶏と魚の浮き袋の蒸し物。 中に入っていた椎茸が肉厚で食感と香りが良かった。幹事さんがサンデーブランチを事前オーダーしてくださったもの。 福臨門に行くと必ず、言葉を失うほどすごいものが出てくる。
国内編
ジビエのトゥルト(オテルドヨシノ・和歌山)
冬に必食のスペシャリテ「ジビエのトゥルト」。
焼ける温度の違う食材を詰めるパイを綺麗に焼き上げる、手島さんの技術に圧倒されるひと皿。
手前の、鏡のようなソースも美しい。
りんごとヘーゼルナッツ(Sublime・新橋)
りんごのタルトとアイスをクッキー生地で挟んでいる。酸味と甘みのバランス。タルトと付け合せのヘーゼルナッツが、食感で補完し合っている。
まながつお(Tirpse・白金台)
まながつお、筍、からすみ、卵黄。
最初に感じるのはまながつおの魚の独特の風味と、香りの強いからすみ。
見た目は削ったからすみと卵黄のソースだが、実は、削った卵黄とからすみのソースだったらしい。つまり、からすみと卵黄の見た目が逆にしてあった。
このときのシェフ春田理宏さんは、いまは新店cronyのシェフ。
大根とトリュフソース(l’Odorante par MinoruNakijin・銀座)
味つけの淡い色とりどりの大根と、思い切り酸味を効かせた黒トリュフソースの、色も味わいも対照的なのにまとまっている今帰仁さんのひと皿。
ほかにヒラメのバターソースなど、フランス料理のソースの底力を感じた。
干夢卜焼果子狸(巴蜀・博多)
常連のかたの食事会に参加させていただき出会ったハクビシンの煮込み。
干し大根と乳酸発酵させた唐辛子で煮込んである。
当たり前だけど熊とも猪とも牛とも違う。旨い。特に脂が。
干焼海参(なまこ)も忘れがたかった。
シェフ荻野さん自家製の複数の乳酸発酵調味料が使われていて、味を奥行きのあるものにしていた。
湯燜大虷(一碗水・堺筋本町)
予約取れなくて5年くらい、行けて良かった一碗水。
赤エビの炒め、エビの油の香りの殻をずっとしゃぶっていたかった。
残った油は隣の麺に吸わせて頂く。
ホワイトアスパラとシブレットのソース(アラジン・広尾)
3月中旬に訪問。早春の茹でたてホワイトアスパラ。
デザートには冬の紅玉の薄焼きタルト。
この両方が頂けるのは、2つの食材が重なるこの時期ならでは。
鳩のロースト(L’orgueil・外苑前)
シェフの加瀬史也さんはランスの「レ・クレイエール」出身で、ワインは赤までほぼランス縛り。
この鳩の火入れは、直球で記憶に残るものだった。
ブッラータ(Hommage・浅草)
白いブッラータに赤い花片で、視覚的にも美しい。
透明な飴の下にフルーツトマト。
酸味、うま味、苦味など食材がそれぞれ一つずつの味覚の層となっている多層的な料理。
Cipolla Caramellata(cainoya・鹿児島)
塩澤さんは、ミラノ近郊のレストラン「DO」の玉ねぎ料理にヒントを得て、新玉ねぎの出る時期の料理を、通年で出せるように、まとめて仕込んでいるのだとか。3時間キャラメリゼした、玉ねぎだけの甘さ。パルミジャーノのアイスとともに。
1年間お読みいただきましてありがとうございました。
2017年もよろしくご愛顧のほどを。