世界のレストラン情報を扱うサイト「Fine Dining lovers」に、今年の世界のベストレストラン50の結果(6月19日発表)を受けて、興味深いインフォグラフィックデータが転載されていた(転載元;Gluttonomy)。
詳しくはリンク先の表をご参照いただくほうがわかりやすいのだが、指摘されている事項は以下の通り。
◆50軒の大陸ごとの内訳
欧州28、北米8、アジア7、南米5、豪州1、アフリカ1
◆シェフの男女比
極端な男性優位(女性シェフは4名のみ)
(gluttonomyはスペインのサイトなので、ウチはエレナがいるぜドヤァってあるのがふふっとなる)
◆シェフの年齢層
最も多いのが40-49歳。50軒のうち58%(29軒)
◆新規エントリー軒数
9軒(後述しますが、すべて昨年度100位までにランクインしている店)
◆順位上下
UP27軒、DOWN21軒、同位2軒
◆5年ランクインし続けている店
21軒
この表を見て感じるのはやはりというか、評価されているレストランの中の、ヨーロッパの偏重ぶりだ。
アジアや北米・南米や新たなアフリカ大陸など広がってきているものの、50軒のうちで28軒と過半数までを占めている。
投票する評議員の国の散らばりがわからないけれども、今年は50軒を23ヶ国で分け合うかたちとなった。
この国の数はここ3年ほどほとんど増減していない。
国の数は広がっているように見えながらも、やはりレストランの世界の味と評価の偏りはあるなと思う。
・今年の世界1位
イタリア・モデナの「オステリア・フランチェスカーナ」。
1位は2度目。2016年以来の返り咲き。
・日本勢の動向
アジアベスト50で2位となった「傳」が17位。
結果は77位→45位→17位と大幅に上げて「Highest Climber」も同時受賞。
あとは「ナリサワ」22位、「日本料理 龍吟」41位の3軒がランクイン。
ちなみに50-100位は以下の2軒。
フロリレージュ(59位)
レフェルベソンス(92位)
・50位までの国別の軒数
昨年より1ヶ国増えて23ヶ国。
ここ数年、22ヶ国~23ヶ国で推移している。
例によって、50軒を国別で並べてみる。(大陸別は前述の通り)
2018年の50軒
スペイン 7軒
米国 6
フランス 5
英国 4
イタリア 4
ペルー 3
日本 3
タイ 2
メキシコ 2
オーストラリア 2
1軒…ブラジル・チリ・中国・デンマーク・ドイツ・ノルウェー・ロシア・シンガポール・スロヴェニア・南アフリカ・スイス・トルコ
1位に返り咲いたのはイタリア・モデナの「オステリア・フランチェスカーナ」。
シェフのマッシモ・ボットゥーラ氏が、いま料理とともに今年注目されているのは、食材ロスを防ぎ、すべての人にガストロノミー体験を提供するレストランの試みだ。
貧困者向けに料理を無料で提供する、ミラノやパリにオープンした食堂「レフェットリオ Refettorio」。
2016年のときも、その前年に行われたミラノ万博をきっかけとして会場近くにオープンした「アンブローシア食堂」が注目されていたことを、思い起こす必要があるだろう。期限切れ近い食材を捨てずに料理にする、有名シェフが入れ代わり立ち代わり参加する、ということで話題になった。
開催地のお膝元スペインは、昨年より1軒増。
エルブリ出身の3人のシェフがいるバルセロナの1つ星「ディスフルタール」が昨年の55位から18位にランクインして「Highest New Entry」賞も受賞している。
フランス勢では昨年46位だった「ラストランス」がランク外52位となっていた。ベスト50は、フランス国内では話題にもすでにあまりなっていない様子。
2015年頃にできたアンチサイト「OCCUPY50BEST」もすでに消えていた。
北欧勢は、コペンハーゲンの「ノーマ」やストックホルムの「フランツェン」が移転関連で姿がないこともあり、今は「ゲラニウム」と、新規ランクインの「マーエモ」のみだ。
審査員は北欧にはあまり行っていないのか、昨年39位だったコペンハーゲンの「レレ」は今年は100位までにも入っていない。シェフ交代が原因かとも一瞬考えたが、たぶん違う。交代してもう2年にはなるはず。
アジア勢では、シンガポールの「アンドレ」が2月に閉店したいま、「オデット」が86位→28位と急上昇している。
ベスト50の順位の算出方法は、審査員の投票による。
審査員が過去18ヶ月のうちにその店に実際に訪れていることが条件だから、上位に来るのは必然的に「人の口の端に上る店」「人気のある店」ということになる。
ミシュランやゴ・エ・ミヨの評価とベスト50の評価方法が大きく異なるのは、行ってどうだったかの定点観測ではなく、行ったことそのものが投票に結びつく点だ。
すべての店に行ってランキングをつけるのではなく、行ったか行かないかで点数がつくランキングであるならば、そこに表れる点数は、もはや、味の評価ではない。
交通の便の良い店や、1つの国に競合店が少ない店は、そうでない店よりも必然的に上に押し上げられるだろう。
「厨房のドアを開けたら、世界につながっている」
と言ったのは誰だったか。
国からも自治体からも助力のない1軒のレストランが世界的に評価されていくのは並大抵のことではないと思うが、SNSやコラボディナーなどのイベントで、世界へ直接アピールする発信が可能になったのも今日の特徴だ。
シェフの交際範囲が広ければ広いほど、話題にもなり、それが順位に結びつく。
いま、人気の店には、国を超えてコラボディナーのオファーが殺到していると聞く。
料理が良いだけでなく、料理人として、(フードロスへ目を向けるなどの)社会的関心をどれだけ提言でき、周囲の人々を巻き込んでいけるか。社会的倫理意識も、ここまで世界で話題になるような店であれば、求められていく時代になってきたのだなと思う。
投票するときに、料理の味そのもの以外に、審査員がそういったシェフの倫理感や言論活動の要素などを全く考慮に入れないということはないだろう。
このランキングが始まった17年前には、そもそもSNSがなかったし、航空機での移動は今ほど安価・便利ではなかったし、国を超えたシェフの交流などはまだあまり聞かなかった。
そういう点では、このランキングが、当時は誰も考えなかったような展開を見せているのが、今なのではないかと思う。
昨年の雑感は→こちら 中心移ろいゆく、2017世界のベストレストラン50
今年のアジアベストレストランの雑感は→こちら 2018アジアベストレストラン50、国・地域別の散らばりと雑感
全店リストは、ランクイン軒数の多い国順に。
WORLD’S 50 BEST RESTAURANTS 2018: full list:
(↓↑→は昨年との順位の相違、Nは新登場)
——-スペイン 7軒——-
2. El Celler de Can Roca, Girona (Spain) ↑
9. Mugaritz, San Sebastian (Spain) →
10. Asador Etxebarri, Atxondo (Spain) ↓
18. Disfrutar, Barcelona (Spain) N 2017年55位 -Highest New Entry
31. Arzak, San Sebastian (Spain) ↓
32. Tickets, Barcelona (Spain) ↓
43. Azurmendi, Larrabetzu (Spain) ↓
——-米国 6軒——-
4. Eleven Madison Park, New York (USA) ↓ -BEST RESTAURANT IN NORTH AMERICA
12. Blue Hill at Stone Barns, Tarrytown (USA) ↓
25. Cosme, New York (USA) ↑
26. Le Bernardin, New York (USA) ↓
34. Alinea, Chicago (USA) ↓
46. Saison, San Francisco (USA) ↓
——-フランス 5軒——-
3. Mirazur, Menton (France) ↑
8. Arpège, Paris (France) ↑
21. Alain Ducasse au Plaza Athénée, Paris (France) ↓
29. Alléno Paris at Pavillon Ledoyen, Paris (France) ↑
40. Septime, Paris (France) ↓
——-イタリア 4軒——-
1. Osteria Francescana, Modena (Italy) ↑ -BEST RESTAURANT IN EUROPE and BEST RESTAURANT IN THE WORLD
16. Piazza Duomo, Alba (Italy) ↓
23. Le Calandre, Rubano (Italy) ↑
36. Reale, Castel di Sangro (Italy) ↑
——-英国 4軒——-
33. The Clove Club, London (UK) ↓
38. Lyle’s, London (UK) N 2017年54位
42. The Ledbury, London (UK) ↓
45. Dinner by Heston Blumenthal, London (UK) ↓
——-ペルー 3軒——-
6. Central, Lima (Peru) ↓ -BEST RESTAURANT IN SOUTH AMERICA
7. Maido, Lima (Peru) ↑
39. Astrid Y Gastón, Lima (Peru) ↓
——-日本 3軒——-
17. Den, Tokyo (Japan) ↑ -Highest Climber
22. Narisawa, Tokyo (Japan) ↓
41. Nihonryori Ryugin, Tokyo (Japan) N 2017年52位
——-タイ 2軒——-
5. Gaggan, Bangkok (Thailand) ↑ -BEST RESTAURANT IN ASIA
49. Nahm, Bangkok (Thailand) ↓
——-メキシコ 2軒——-
11. Quintonil, Mexico City (Mexico) ↑
13. Pujol, Mexico City (Mexico) ↑
——-1軒 14ヶ国——-
14. Steirereck, Vienna (Austria) ↓
15. White Rabbit, Moscow (Russia) ↑
19. Geranium, Copenhagen (Denmark) → -Art of Hospitality Award
20. Attica, Melbourne (Australia) ↑ -BEST RESTAURANT IN AUSTRALASIA
24. Ultraviolet, Shanghai (China) ↑
27. Boragò, Santiago (Chile) ↑
28. Odette (Singapore)N2017年86位
30. D.O.M. , Sao Paulo (Brazil) ↓
35. Maaemo, Oslo (Norway) N2017年79位
37. Restaurant Tim Raue, Berlin (Germany) ↑
44. Mikla, Instanbul (Turkey) N2017年51位
47. Schloss Schauenstein, Fürstenau (Switzerland)N2017年72位
48. Hiša Franko, Kobarid (Slovenia)N2017年69位
50. The Test Kitchen, Cape Town (South Africa)N2017年63位 -BEST RESTAURANT IN AFRICA