2月5日、Gault & MillauJapan2019が発売になった。
ゴ・エ・ミヨが日本に上陸して3年目。
前日4日には各賞発表・授賞式と本のお披露目のパーティが都内で行われた。
掲載軒数と地域は昨年から大幅増で、授賞式は600名(主催者発表)の出席があったという。
授賞式では、店舗の評価とは別に設けられた、各種部門賞の発表と授賞セレモニーが行われた。
ゴ・エ・ミヨ2019年の各賞は以下の通り。
今年のシェフ賞(chef de l’année)
調査した店舗の中で、才能を縦横に発揮し最も斬新で完成度の高いインパクトのある料理を出した料理人
山本征治氏(日本料理龍吟)(賞金200万円・今年度より新設)
明日のグランシェフ賞
確かな基本技術で店舗に貢献し、その才能に将来のグランシェフへの可能性を認められた料理人
川田智也氏(茶禅華)
坂本健氏(チェンチ)
長谷川稔氏(長谷川稔)
米田裕二・亜佐美氏(ショクドウ ヤーン)
期待の若手シェフ賞
才能と情熱、技術とが今後の活躍を大いに期待させる新進気鋭の料理人
荒木啓至氏(天ぷら あら木)
葛原将季氏(レミニセンス)
藤木千夏氏(ウミ)
トランスミッション賞
培ってきた知識と技術を、時に国を超え、世代を超えてトランスミッション(=伝える)することに多大な貢献が認められた料理人
村田吉弘氏(菊乃井)
イノベーション賞
自身のキャリア、料理哲学、店舗のコンセプトなどにおいて、挑戦することを選び、新たな切り口で一歩を踏み出した料理人
木村泉美氏(鮨人)
志村剛生氏(天ぷら 成生)
テロワール賞
その土地の風土や食材、育まれてきた文化に敬意を持ち、料理または食材を通じてその土地の文化や作り手の想いを伝えることを、信念をもって志す料理人または生産者
曽我貴彦氏(ドメーヌ タカヒコ)
吉村智和氏(農業生産法人株式会社フィールドワークス)
多田昌豊氏(ボン ダボン)
ベストソムリエ賞
情野博之氏(アピシウス)
ベストPOP賞
特筆すべき点があり、カジュアルに楽しむことのできるレストランを紹介するPOP部門の中で最も優れたレストラン
アン ディ(外苑前)
ホスピタリティ賞
独自の哲学に基づいて、ほかでは体験できない「おもてなし」のスタイルを持ち、施設を取り巻く環境、館内の設えはもちろん、訪れた人の期待を上回るような気遣いが行き届いている宿泊施設
アクアイグニス(三重県三重郡菰野町)
調査対象地域は以下の通り。
【2017】東京・石川・富山・福井 300軒
【2018】東京・石川・富山・福井・岡山・広島・山口 470軒
【2019】東京・北海道・石川・富山・福井・静岡・愛知・岐阜・三重・京都・兵庫 529軒
昨年の瀬戸内地区(岡山・広島・山口)はいったん休み。
代わりに、北海道・東海・京都・神戸が入った。
掲載総店舗数も初年度(300軒)に比べて1.7倍に増加。 今年は、東京の掲載軒数がかなり絞られているようだ。 (2018年の東京の掲載店舗数は298軒、今年は255軒)
調査地区が北海道・東海・関西と増えているのが、原因のひとつだろう。
今年の高評価店は以下の通り。
比較のために、今年のミシュランの評価もあわせて置いてみる。
19/20点
エスキス(昨年 19)★★
カンテサンス(同 19)★★★
松川(19)-
ロオジエ(18.5)★★★
日本料理龍吟(19)★★★
菊乃井本店(初)★★★
未在(初)★★★
18.5/20点
神楽坂 石かわ(19)★★★
虎白(19)★★★
日本料理 かんだ(19)★★★
18/20点
ジョエル・ロブション(19)★★★
銀座 小十(17)★★
まき村(初)★★★
銀座 すきやばし次郎(17)★★★
鮨さいとう(17)★★★
茶禅華(初)★★
飯田(初)★★★
18点で切ったのは、ここまでが「高評価レストラン」として、本誌に別枠で掲載されているからだ。
エスキス・小十・茶禅華・松川(松川はミシュラン非掲載)以外はすべて3つ星であり、ここにあげた店はどれも東京・京都を代表する店として、衆目の一致する結果といえるだろう。
ゴ・エ・ミヨは、1972年にフランスのアンリ・ゴとクリスチャン・ミヨの2氏がパリで始めた、レストラン評価のガイド本である。 その前身のガイド時代を含めると、スタートして50年ほどになる。
Gault&Millauは、ゴエミヨ、ゴーミヨ、ゴ・エ・ミヨなどと一般にいくつか呼び方があるが、ここでは、日本版の書籍にあるカタカナ表記にならって「ゴ・エ・ミヨ」と表記することにする。
ゴ・エ・ミヨとは?
✔ 新しい才能発見のパイオニア
✔ キーワードはテロワールとプロフェッショナルたちとのネットワーク
✔ 強力な国際展開力
✔ 食の国際的なプラットフォーム (公式サイトより)
ゴ・エ・ミヨは、1970年以前に主流だった格式ばって重いフランス料理ではなく、シンプルさと軽さを重視する「新しい料理」を評価していった。その評価はフランスの料理界にヌーヴェル・キュイジーヌの流れを生んだ。
若き日のポール・ボキューズに最初に注目したのもゴ・エ・ミヨだといわれている。
「新しい才能発見のパイオニア」と最初にうたっているのもそのためだろう。
ゴ・エ・ミヨは現在、欧州を中心にフランス以外の各地で新刊を出し続けており、現時点で、23の国と地域のガイドが出版されている。
日本は、アジアでは唯一の発行となる。
ここで、ゴ・エ・ミヨとミシュランの評価方法の違いをおさらいしておきたい。
両者の評価の最も大きな違いは、星の数か点数かという部分だ。
ゴ・エ・ミヨは、店舗の評価の方法として、20点満点の点数(0.5点きざみ)で表す。
評価を小刻みにすれば、当然ながら、評価の精度を上げられるのがメリットだ。
ミシュラン1つ星の店で「ここの料理すごいな…2つ星でもいいんじゃないか」ともし思ったとしても、1つ星は1つ星。同じ評価だ。
それが点数であれば、14.5点か15点か15.5点か、というので、ガイドとしての見解はより明確に伝わる。 しかし逆に言うと、1点の評価の違いは細かすぎて、一般のユーザーにとっては覚えられにくいということでもある。
(それもあってか、点数は最大5つのコック帽(トック)の数でも同時に表示されている)
評価の範囲も異なる。
「皿の上のみを評価する」と言われるミシュランに対し、ゴ・エ・ミヨは、「予約の電話から見送りまで」(書籍版P.07「評価基準について」より)と明確に表示しているのが特徴だ。
このような評価方法や範囲の違いがあるので、結果はおのずと違ってくるはずが、さきの高評価店の比較の通り、点数上位数軒の店の評価は、結果として両者かなり似通ってきている。
それには、いくつか理由があると思う。
「ゴ・エ・ミヨ」の編集方針として、先ほども見たように、①新しい才能の発掘、②テロワール(と地方の食振興)の2つの柱がある。
どちらかというと、まずゴ・エ・ミヨがまだ知られていない店(やシェフ)を発掘・評価し、そのあと、ミシュランがある程度評価の定まった店に星を与える…と、一般的にはこれまでいわれてきた。
しかし、先に述べたように、新しい才能の発掘に強いのはゴ・エ・ミヨというようなかつての一般的な理解は、事実上、ミシュランも同時に同じような評価となってきている。
実際、現在は、ミシュランでも同じように新店舗にすぐ星がつくことが多い。
その理由はおそらく、いまのこの情報の伝達の速度が、今までと比べ物にならないほど上がったことがあげられるだろう。
かつてウェブやSNSがなかった、つい20年くらい前までは、信頼できる情報を得るには数か月かかることが当たり前だった。
雑誌や新聞で新しいレストラン情報を知るのに、ずいぶん時間がかかったし(週刊誌や月刊誌が出るスパンだとどうしてもそうなる)、そういう情報を発信できる人も限られていた。かつては、ゴ・エ・ミヨの新しい才能の情報は、年に一度の発刊でもじゅうぶんに「早い」ものだったはずだ。
今は違う。
今はレストランの開店情報や料理の評判が、瞬時に共有できる時代になった。そしてそれは国内・国外を問わない。 ウェブ上に公開された数多くの評価から、だれでもある程度の情報の検証が即座にできるようになった。「良い」と言われた店が翌日から予約困難店となるのは、もはや当たり前となった。
ゴ・エ・ミヨの長所は、掲載店の幅を広くもたせられる点だと思う。
ゴ・エ・ミヨは20点を最高点として、10点以上の店舗が掲載となる。
だいたい、15点前後の点数とミシュラン1つ星が対応している感覚だ。
15点未満の店が掲載されるということは、「ミシュランの星はついていないが、素直に良いと思える店」が掲載される、選択の幅が広がるということだ。
ミシュランフランス版には「アシェット」という、もうすぐ1つ星というカテゴリがある。しかしこのカテゴリは、現時点では日本版には導入されていない。
また、ビブグルマンには「予算5,000円未満」という制約があり、これより上の価格帯でカジュアルな店の料理は、ミシュランでは掬われていないのが現状だ。 コース5,000円以上で、設えは気取りがなくビストロのようにカジュアル、サービス陣はシャツとジーンズ、そして料理はとても良い…そういう店を、最近は殊に多く見るようになった気がする。
地方の食・生産者振興に力を入れているのが、ゴ・エ・ミヨの特徴だ。
冒頭に紹介したように、表彰する各賞のなかに、その土地の風土に誇りを持って活動する生産者や料理人に送られるテロワール賞を設定してしている。 調査地域を急速に広げているのは、地方の料理人・生産者を積極的に顕彰したいという意味合いもあるのだろう。
「ゴ・エ・ミヨ」も日本版が出て3年目となり、SNSなどを見ていると、掲載店や料理人さんの喜びのコメントが、これまでの2年よりずいぶん増えた気がする。
地方―特に、東海地区(静岡・愛知・岐阜・三重)、北陸地区(福井)はミシュランが現時点でカバーしていない地域でもあり、授賞式では、これらの地区のシェフ、また、新たに今年加わった北海道地区の掲載店のシェフを多く見かけた。
良いレストランとは何だろうか。
当たり前のことだがレストランの評価軸は一つではない。
評価軸が多いほど、顕彰される店の幅も広がり、良いレストラン・料理人・食材の幅も広がるのだと実感させられる。