2月19日(水)Gault & Millau Japan2020が発売になった。
ゴ・エ・ミヨが日本に上陸して4年目。
2月17日には各賞発表・授賞式が都内で行われた。
今年の授賞セレモニーは、著名人がプレゼンターに招かれた。
渡部建、中村アン、郷ひろみ。
プレゼンターの出席は授賞式ではサプライズで、特に最後の郷ひろみの名前がアナウンスされたときは、会場からどよめきが起きた。壇上に上がる軽やかな身のこなしと美しい立ち居振る舞い。にじみ出るオーラは、やはりスターの貫禄だ。
結果として翌日の報道番組やウェブニュースは、報道量が昨年とはけた違いだった。
メディアは郷ひろみを映しながらも(当たり前だが)本のことが「仏のレストランガイドブック日本版の第4号」「ミシュランガイドに並ぶ、食のガイドブック」と紹介されており、まだ一般に知名度が高いとはいいがたいゴ・エ・ミヨが、結果としてお茶の間にずいぶん流されることになった。
ゴ・エ・ミヨ2020年の各賞は以下の通り。
今年のシェフ賞(chef de l’annee)
調査した店舗の中で、才能を縦横に発揮し最も斬新で完成度の高いインパクトのある料理を出した料理人
岸田周三氏(カンテサンス)
明日のグランシェフ賞
確かな基本技術で店舗に貢献し、その才能に将来のグランシェフへの可能性を認められた料理人
石井誠氏(ル・ミュゼ)
片折卓矢氏(片折)
手島純也氏(オテル・ド・ヨシノ)
期待の若手シェフ賞
才能と情熱、技術とが今後の活躍を大いに期待させる新進気鋭の料理人
植田将道氏(すし うえだ)
高平康司氏(くるますし)
舛永高太郎氏(永山)
本岡将氏(レストラン ビオス)
トラディション賞
徳山浩明氏(徳山鮓)
イノベーション賞
自身のキャリア、料理哲学、店舗のコンセプトなどにおいて、挑戦することを選び、新たな切り口で一歩を踏み出した料理人
黒木純氏(くろぎ)
ベストパティシエ賞
平瀬祥子氏(レストラン ローブ)
ベストソムリエ賞
岩田渉氏(ザ・サウザンド キョウト)
テロワール賞
その土地の風土や食材、育まれてきた文化に敬意を持ち、料理または食材を通じてその土地の文化や作り手の想いを伝えることを、信念をもって志す料理人または生産者
愛農学園農業高等校 養豚部
株式会社CAVIC
ベストPOP賞
特筆すべき点があり、カジュアルに楽しむことのできるレストランを紹介するPOP部門の中で最も優れたレストラン
o/sio
キキ ハラジュク
ホスピタリティ賞、トランスミッション賞等、毎年出ない賞もある。
今年の高評価店は以下の通り。上位店に変動は少ない。
新しく加わった地域からハジメが入っているのが目を引く。
19/20点
エスキス(→)
カンテサンス(→)
ロオジエ(→)
赤坂 松川(→)
日本料理 龍吟(→)
未在(→)
18.5/20点
神楽坂 石かわ(→)
虎白(→)
日本料理 かんだ(→)
ハジメ(初)
菊乃井 本店(↓)
18/20点
ジョエル ロブション(→)
茶禅華(→)
銀座 小十(→)
銀座 すきやばし次郎(→)
鮨 さいとう(→)
飯田(→)
調査対象地域は以下の通り。
【2018】東京・石川・富山・福井・岡山・広島・山口 470軒
【2019】東京・北海道・石川・富山・福井・静岡・愛知・岐阜・三重・京都・兵庫 529軒
【2020】東京・北海道・石川・富山・福井・静岡・愛知・岐阜・三重・大阪・京都・兵庫・奈良・滋賀・和歌山・岡山・広島・山口・島根・鳥取・徳島・香川・愛媛・高知 673軒
2019年に対象地域から外れていた瀬戸内地区(岡山・広島・山口)が復活。
新たに近畿(京都のみ2019年から入っていた)、中国、四国が追加。
24県となると、逆に対象になってないのはどこ?を考えた方が早そうなラインナップだ。
掲載総店舗数も、初年度(300軒)と比べると2倍以上に増加している。
掲載軒数が昨年から529軒→673軒と1.3倍に増えたが、それ以上に掲載地域が増えたので、相対的に各地方の掲載軒数が絞られているようだ。
また、昨年と今年の大きな違いはPOPの欄だ。
たとえば東京だけでみると、昨年の51軒が今年は23軒と半分以下、しかも昨年と今年で重なっているのが6軒しかない。
POPの選考基準にあたる記述を書籍から拾うと、
「数品と1杯、という楽しみ方から、気の置けない仲間との食事まで、ガストロノミーをより日常的に楽しんでいただくためのセレクションです」(2020)
という部分が今年から付け加わっている。
POPは選考基準自体が見直されているのかもしれない。
ゴ・エ・ミヨは、1972年にフランスのアンリ・ゴとクリスチャン・ミヨの2氏がパリで始めた、レストラン評価のガイド本である。
その前身のガイド時代を含めると、スタートして50年ほどになる。
ゴ・エ・ミヨは現在、フランスを中心に欧州各地で新刊を出し続けており、現時点で、20の国と地域のガイドが出版されている。
日本は、昨年と同じであれば、アジアでは唯一の発行のはずだ。
20点満点でレストランの「予約から見送りまで」を評価する、とうたわれている。
「皿の上だけを評価する」とされているミシュランと大きく異なる点だ。
逆に言えば、料理がいくら良くても、料理以外の部分でバランスを欠く部分があった場合は減点されているだろうという予想がつく。
20点満点は「神の領域」といわれ、出ればニュースになるほど希少だ。
日本のゴ・エ・ミヨでは、これまで19点が最高点となっている。
各店舗に掲載誌が渡されるのは会が終わってからなので、授賞式の前に点数を知ることができないのはミシュランと同じだ(日本のミシュランでは、授賞式直前には知ることができるらしい)。
しかしゴ・エ・ミヨは、フランスの近年のミシュラン発表会場のように、シェフが緊張で蒼白になっているというようなことはなく、会はなごやかだ。掲載店のみが授賞式に招待されるシステムなのだろう。
掲載地域が広がってきたことにより、普段は会えない離れた地域のシェフが一堂に会して、旧交を温める様子が多く見られた。
どちらかというと、掲載されるかされないか、つまり招待状が来るかどうかという時点で、各店舗にとっては結果と同じような意味を持っているように感じられた。
授賞式当日は、授賞者を祝福し、そしてお互いの一年の健闘を讃え合う場なのだ。
ゴ・エ・ミヨが重視しているのは「テロワール」と「新しい才能の発掘」。
この二つのキーワードは、毎年変わらず本の帯などの目立つ場所に書かれている。
フランスで言うところの「テロワール」を、日本版では「列島の多様な風土の中で生まれた食材」と解釈して、地方性が顕著であるかどうかを重要視し、また、料理人を採点するというよりは、応援する部分に軸足があるように見える。
「シェフを応援する」という姿勢。
それが顕著に表れているのは、ひとつひとつの長いレビューだろう。
ゴ・エ・ミヨは1軒あたり300字~450字ずつ割いて、料理から読み取れる料理人の姿勢を明らかにしようとしている。
今年から採点の対象になった大阪の、ミチノ・ル・トゥールビヨンの道野正さんの投稿。
道野さんの、長いキャリアと人生観がそのまま料理になったようなあの感じを、適切に言葉にして伝えるレビューだ。
書かれた道野さんの感想を読んでいるこちらにも「まだまだやれるぞ、オレは」と奮い立つような思いが伝わってくる。
料理人を励ますのは毎年上下する点数だけではない。
ことばもまた、それ以上の力を持つものなのだ。
昨年の感想は→こちら