2月17日(水)Gault & Millau Japan2021が発売になった。 ゴ・エ・ミヨが日本に上陸して5年目。 2月15日には各賞発表・授賞式が都内で行われた。
昨年までは、受賞者のみならず掲載店舗のシェフほか関係者を招待し300人規模の大掛かりな授賞式を行っていたが、今年はコロナ感染拡大防止の観点から会の規模を縮小し、受賞者とメディア関係者だけが参加となったらしい。オンラインでの授賞式中継やビデオ配信等は行われなかった。 それでも賞のプレゼンターには郷ひろみや中村アンなど昨年と同じように著名人を招き、翌日のTVニュース番組などでの露出を狙っていたようだ。
奥付を見ると発売に幻冬舎が関わっており、昨年も来賓挨拶で同社社長の見城徹氏が壇上に立ち、ゴ・エ・ミヨの名称ライセンスを10年契約で購入したことを明かしていた。
幻冬舎と発行元のガストロノミー・パートナーズ社との結びつきが強まっていることを、このゲスト選定からも感じ取ることができる。
ゴ・エ・ミヨ2021年の各賞は以下の通り。
冒頭の3つのシェフ賞には生年を付した。
この3賞は、年齢が受賞のある程度の目安となっている賞だからだ。
調査した店舗の中で、才能を縦横に発揮し最も斬新で完成度の高いインパクトのある料理を出した料理人
今年のシェフ賞(chef de l’annee)
米田 肇氏(大阪、HAJIME、イノベーティブ)1972年生
確かな基本技術で店舗に貢献し、その才能に将来のグランシェフへの可能性を認められた料理人
明日のグランシェフ賞
斎藤宏文氏(神奈川、イチリン ハナレ、中国料理)1976年生
柴田秀之氏(東京、レストラン ラ クレリエール、フランス料理)1979年生
高尾僚将氏(北海道、TAKAO、イタリア料理)1974年生
才能と情熱、技術とが今後の活躍を大いに期待させる新進気鋭の料理人
期待の若手シェフ賞
荻野聡士氏(東京、赤坂 おぎ乃、日本料理)1987年生
信太竜馬氏(東京、エラン、フランス料理)1988年生
山崎志朗氏(東京、山﨑、日本料理)1987年生
培ってきた知識と技術を、時に国を超え、世代を超えてトランスミッションする(=伝える)ことに多大な貢献をした料理人
トランスミッション賞
音羽和紀氏(栃木、オトワレストラン、フランス料理)
自身のキャリア、料理哲学、店舗のコンセプトなどにおいて、挑戦することを選び、新たな切り口で一歩を踏み出した料理人・生産者
トラディション賞
中東久人氏(京都、美山荘、日本料理)
土地が育んできた伝統文化を守りつつも、時に挑戦を試み、次世代へつなぐ知識と技を磨き続ける料理人
イノベーション賞
※これまで対象は料理人となっていたが、今年は生産者という文言が加えられた。
佐藤 慶氏(東京、虓、イノベーティブ)
新保吉伸氏(滋賀、株式会社サカエヤ)
ワインの知識やワインリストの構成のみならず、卓越した接客術を持ち、常にお客様重視の姿勢でサービスを行うソムリエ
ベストソムリエ賞
松岡正浩氏(大阪、柏屋、日本料理)
レストランや料理店において、その店の世界観を的確に伝える最終的な接点として、お客様に寛ぎと深い感動の記憶を残すサービスを展開している人
ベストサービス・ホスピタリティ賞
和田智子氏(石川、和田屋、日本料理)
その土地の風土や食材、育まれてきた文化に敬意を持ち、料理または食材を通じてその土地の文化や作り手の想いを伝えることを、信念をもって志す料理人または生産者
テロワール賞
井上和洋氏(新潟、レストラン ウオゼン、フランス料理) 藤本純一氏(愛媛、正栄丸 船長) 前田尚毅氏(静岡、サスエ前田魚店)
ベストパティシエ賞、ベストPOP賞など、毎年出ない賞もある。
調査対象地域は以下の通り。
【2018】東京・石川・富山・福井・岡山・広島・山口 470軒
【2019】東京・北海道・石川・富山・福井・静岡・愛知・岐阜・三重・京都・兵庫 529軒
【2020】東京・北海道・石川・富山・福井・静岡・愛知・岐阜・三重・大阪・京都・兵庫・奈良・滋賀・和歌山・岡山・広島・山口・島根・鳥取・徳島・香川・愛媛・高知 673軒
【2021】東京・北海道・石川・富山・福井・静岡・愛知・岐阜・三重・大阪・京都・兵庫・奈良・滋賀・和歌山・岡山・広島・山口・島根・鳥取・徳島・香川・愛媛・高知・茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・神奈川・山梨・長野・新潟 403軒
調査地域が昨年よりさらに広がって、33都道府県となった。
初掲載が関東甲信越地区(茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・神奈川・山梨・長野・新潟)。 誌名の通り「ジャポン」、調査対象地域が日本全国に広がるのも時間の問題だろう。
対して調査軒数は403軒、昨年軒数の2/3と大幅に減らしていることから、昨年の掲載店で今年は載っていない店が単純に220軒以上あることになる(関東甲信越地域のみで41軒増で、他地域でも新規掲載の店があるので)。
2021年版年はミシュランも含め、飲食店の休業や閉店により調査ができなかった期間が長かったはずだ。
それもあって、ゴ・エ・ミヨの調査店舗はなかなかドラスティックに入れ替えをやっているといえる。
新規掲載店を見ていると、新規開店の店をいち早く掲載していることがうかがえた。
レストランナズ(軽井沢・20年9月開業)、カードル(福井・20年10月開業)等々。
今年の高評価店は以下の通り。 19点の店が6軒→2軒となった。
日本橋蛎殻町 すぎたが1点増、ロオジエの1点減が目を引く。 このあたりの高得点の店は、20分の1点といってもかなり大きい評価の変更といえるだろう。 ロオジエは(個人的に)友人など最近行った周囲の人がすべて絶賛に近かったので、この評価減は意外ではあった。 予約は相変わらず取りづらく、再訪の機会がなかなかめぐってこない。
19/20点
赤坂 松川(→)
日本料理 龍吟(→)
18.5/20点
エスキス(↓)
カンテサンス(↓)
虎白(→)
日本料理 かんだ(→)
日本橋蛎殻町 すぎた(↑)
ハジメ(→)
飯田(↑)
未在(↓)
18/20点
ジョエル ロブション(→)
ロオジエ(↓)
神楽坂 石かわ(→)
銀座 すきやばし次郎 本店(→)
菊乃井 本店(↓)
エスト、エステール、シノワ、慈華、山崎、赤坂おぎ乃、鮨 あお(以上東京) メゾンフジヤハコダテ(北海道) サヴァカ(静岡) タカヤマ、ルーラ、ベルロオジエ(以上京都) ナカド、オマッジオ ダ コニシ(以上中国地方) 道後海舟(愛媛)
♡マークのカテゴリがあらたにできた。
ガストロノミーとPOPの中間的な扱いのようだ。 書籍を見るとこのような説明がある。 「カジュアルな設えでありながらも、料理の質が高く、試みに工夫が見られ、リーズナブルな値段でガストロノミーが楽しめる店舗」。 点数はおおよそ13.5点~14点。 全部で20軒程度とまだ多くない。
この価格帯に、お、と目を惹く店が個人的に多くあった。
たとえば札幌のクネルや豊橋のアル、大阪のイルポーベロディアボロなど。
新規開業店舗ではなく、ビストロとガストロノミーの中間くらいの客単価の店。 これらの店は、ガストロノミー的な店よりも客単価が少々抑えめであるということ以外は、両者はっきり分けられるものではないが、ゴ・エ・ミヨでもミシュランなどでも取り上げられることが少ないカテゴリだ。
個人的には、この部分の評価が拡充される方が、「いま」のレストラン事情に沿っているのではないかと思う。
その代わり、従来からあったPOPの掲載が大幅に減った。 掲載がない地方も多く、全地域すべて拾っても20軒くらいしかない。 ここであまり多くは書かないが、レストラン全体としてガストロノミーとPOPの区分けとして、この2ジャンルでの評価が難しくなっているのは容易に想像はつく。 レストラン評価軸の過渡期といえるかもしれない。
詳しくは別の場所で稿を改めて書くつもりだ。
ゴ・エ・ミヨは、1972年にフランスのアンリ・ゴとクリスチャン・ミヨの2氏がパリで始めた、レストラン評価のガイド本である。
その前身のガイド時代を含めると、スタートして50年ほどになる。
ゴ・エ・ミヨは現在、フランスを中心に欧州各地で新刊を出し続けており、現時点で、15の国と地域のガイドが出版されている。 20点満点でレストランの「予約から見送りまで」を評価する、とうたわれている。 「皿の上だけを評価する」とされているミシュランと大きく異なる点だ。
逆に言えば、料理がいくら良くても、料理以外の部分でバランスを欠く部分があった場合は減点されているだろうという予想がつく。
20点満点は「神の領域」といわれ、出ればニュースになるほど希少だ。 日本のゴ・エ・ミヨでは、これまで19点が最高点となっている。
ゴ・エ・ミヨが重視しているのは「テロワール」と「新しい才能の発掘」。
テロワールとは、作物にその土地特有の性格を与える地理、地勢、気候というような意味だ。 「テロワール」と「新しい才能の発掘」というキーワードは、毎年変わらず本の帯などの目立つ場所に書かれている。 フランスでいうところのテロワールを、ゴ・エ・ミヨ日本版では「列島の多様な風土の中で生まれた食材」と解釈して、地方性が顕著かどうかを重要視しているようだ。
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授賞式に参加されたジャーナリストの江藤詩文さんの投稿によると「(生産者は)若い人たちが憧れる職業ではないから、知ってもらうために公の場に出る意味がある」(「サカエヤ」新保吉伸さん)というスピーチがあったという。
シェフの新しい才能だけでなくそれを支える生産者さんに光を当てることは、ミシュランほかレストラン評価メディアにはほとんど例がなく、そういう点でゴ・エ・ミヨの顕彰には意味がある。 テロワールを評価の主軸に置く以上、テロワールを体現する生産者さんに注目するのは自然なことだからだ。
2020年は、飲食店の休業にともない食材が一時的に供給過多となった生産者さんからのSOSが、ネット上で多く見られた。 飲食店の人たちも、彼ら生産者さんの窮状を自分ごととしてとらえ、なるべく同量の仕入れを行う努力をされていたし、また、生産者さんの情報が一般消費者へもよりきめ細かく届くECコマースが、2020年はより整備された一年だったと思う。 そういう生産者さんの様子が私たち一般消費者にも届くようになったのは、このコロナ禍のなかでの不幸中の幸いというべきかもしれない。
2020年は、レストランにも、ゲストにとっても、忍耐の日々が続きました。同時に、「食」、食にまつわる「人」、その二つが生み出す「空間」は、かけがえのないものだという確信を得た一年でもありました。(巻頭「編集部より」)
レストランという空間を愛する人間にとって、2020年はまさにこのことを痛感した一年でもあった。
いくつもの協力者がぎりぎりの努力をしてこの空間を作り上げているのだということが、失われたことではっきりと見えた一年というべきか。
レストラン文化はそのトップであるシェフをはじめとして、農業、漁業、酪農、畜産業などの各種生産者さんや、またそのほかのサプライヤーである人々が漏れなく稼働してはじめて成り立っているのだということを、2021年版のゴ・エ・ミヨからあらためて考えさせられた。
昨年の感想は→こちら