4月29日、埼玉・東川口にオープンしたRestaurant KAM。
レストランビオス(富士宮)のシェフだった本岡将さんとMaruta(三鷹)にいた田代圭佑さんという幼馴染コンビが独立の地として選んだのは、シェフの親族が所有する、築約60年の古民家だった。
造園業の家らしい広い庭をそのまま菜園とし、料理に使うハーブや野菜、果樹を植える。
約10品のコース料理。
自家製の燻製リコッタチーズや、ゲスト到着後に火を入れるフォカッチャは、レストランビオス時代を知るゲストには嬉しいメニューだろう。
また、自家菜園の季節感を強く印象付けるガルグイユ的なサラダ。メインはフランス産の仔牛に複数のソース。料理は適度にモダンで比較的オーソドックスだ。
料理に比べ、ペアリングはけっこう攻めている。
ノンアルペアリングで印象に残ったのがキハダ(黄檗)を煮出したドリンク。その藺草のような香りをピスタチオやコーヒーに、柑橘でつけた甘さをデザートの柑橘ソースに沿わせる。
他のドリンクはハイビスカスや葡萄など、どれもインパクトがある。
驚いたのが、オープンしてまだ2週間経たないにもかかわらず、料理に使われている多くの食材がすでに自家菜園のものだったこと。
聞くとすでに半数以上がそうだった。少なくとも1年近く前から畑を動かしていないとできない果樹もあったし、収穫を終えてすでに貯蔵済の根菜もあるようだ。
埼玉は正直にいって、地方性がうすく特徴が作りづらい土地だと思う。
その代わりというべきか、KAMは自家菜園を耕して自分たちで野菜を作るという点に、素材の「なぜこれを使うか」の説得性を託している。
料理に使う直前にシェフが畑にハーブや葉物を摘みに行く光景は、ビオス時代の畑と厨房の近さを思い出させた。
料理かそれ以上に魅力的なのが、この物件そのものといっていい。
厨房など数か所を除いて、ほとんど改装せずそのまま使えたという。
座敷に椅子を置いても圧迫感のない高い天井、アルミサッシにしないレトロな窓の桟など、建物は細部まで美しい。そこに200年を超す英国製のテーブルなどアンティーク家具を入れて、あたたかみやくつろぎ感を演出している。
靴を脱いで上がるスタイルは、初訪問のゲストにもきっと不思議と「帰ってきた感」をもたらすだろう。
レストランのスタイルのはしばしに、二人の考えがあらわれているのが興味深かった。
都心から適度に離れた東川口という立地。公式サイトは置かず、予約受付は電話のみ。1日のゲストは最大8名程度。
そもそも、店舗がビルでなく家であることが最も象徴的だ。個人の家にお邪魔する感覚で、よりパーソナルな親密感を感じさせる。
料理人1人サービス1人という最小限の布陣、物件、食材調達…etc.
レストランには、多くの部分で損益分岐点を下げて営業を続けやすくする工夫が感じられた。
店名はKeisuke And Masashiの頭文字から。
ふたりが20歳のときに、一緒にレストランをやることだけでなくこの店名まで決まっていたのだという。
コロナ禍中の2021年、埼玉の地で軽やかに新たな店が船出した。
(写真左がシェフの本岡将さん、右がソムリエの田代圭佑さん)
Restaurant KAM
Instagram→ こちら
川口市戸塚3-1-13
080-4623-0829
月・火休