夕方。
沖縄県に対する時短要請のために16時から始まった気の早いディナー。
まだ夕方の雰囲気にも早い、広いダイニングのあちこちのテーブルで、歓声が上がっている。
最初のひと品は、巨大なハリセンボンに刺されたコロッケだ。
このあと14品続くアミューズに、ゲストは非日常へ誘われる。
器も多種多様で、料理と器が一体化した色とりどりの皿がテーブルいっぱいに並ぶ様子には祝祭感があり、可愛らしくキッチュなオブジェ感のある料理にはどの卓でも歓声が上がっていた。
料理は南国にふさわしい明るい色彩にいろどられ、驚きと楽しさに満ちている。
シェフ小杉浩之さんの遊び心が感じられる。
沖縄・古宇利島の「6 シス」は、フレンチを基調に沖縄伝統料理を再構築した少量多皿のイノベーティブ。
アミューズから食後の小菓子まで20~30種類、その多さに圧倒される。
2005年に隣の屋我地島との間に古宇利大橋が開通した。
沖縄本島・今帰仁から屋我地島を経由し、シスは古宇利大橋で陸伝いに行ける。
店はその古宇利大橋を見渡す高台にある。
印象に残ったのはメインの仔羊のロースト。
仔羊の肉と脂に合わせるのは、花山椒と花山葵、乾燥させて塩もみしたニラの花。
花は食べるとほろ苦く、山菜などの春の苦みのイメージを想起させる。
上手いなあ。
春の苦みには、香りなど苦み以外の要素が多いことにも気づかされる。
苦みを重ねると旨味が生まれる。
* * *
沖縄伝統料理をアグレッシブな攻め具合で再構築するシスの料理。
特筆すべきは、シェフ小杉さんが沖縄出身ではないことだ。
小杉さんは三重県出身。名古屋の人気店「イレテテュヌフワ」をたたみ、妻であるマダムの故郷沖縄へ移住した。
旬を重んじる土地柄で食材が一定に入ってこないなど、沖縄特有の地域性には苦労されているらしい。
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そして料理よりさらに強い印象を残すのがマダム・妙(たえ)さんの明るいキャラクター。窓いっぱいに広がる古宇利大橋と海の絶景すらわき役にしてしまうほどのインパクトだ。
明るいだけでなく、ゲストの先を読むホスピタリティ溢れた接客は別の意味でシスの名物といえる。
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店名の6(シス)とは、第六感という意味だという。
古来、命をつなぐためのものだった食を進化させてきたのが料理、その料理に必要なのが着想と第六感、というような意味だろうか。
原始的なものと文化をつなぐものが第六感。
そう考えると、シェフ小杉さんの料理にかける並々ならぬ情熱も、理解できそうな気がする。
6(シス)
所在地/沖縄県国頭郡今帰仁村古宇利499−1
電話/0980-56-3733
https://six-kouri.com/