7年前に「料理人による、料理に携わる人のための料理学会」として始まった函館の世界料理学会も今回で6回目。
主催者である深谷宏治さん(函館「レストランバスク」シェフ)を中心に、今回も2日間のべ36名の発表者・パネリストを迎えて行われた。
800名入る会場はほぼ満員。2日目の会場では、立ち見も出たそうだ。
5月に有田で初めて行われた「世界料理学会in ARITA」に引き続き、今回は初日だけ参加してきた。
第6回世界料理学会 in HAKODATE
今回のテーマ「イカ」
2016年9月5日(月)・6日(火)
函館市芸術ホール・函館国際ホテル
◆第1日目(9/5)
開会挨拶(深谷宏治)
●いま料理人に突き付けられている刃~素材・環境・経済~(玉村豊男・齋藤壽・深谷宏治)
●TRADITION MEMORIES INNOVATION 伝統、メモリと革新(Chele Gonzalez チェレ・ゴンザレス フィリピン Gallery Vask)
●次世代に伝えたい料理の可能性~日本の歴史、文化、自然や季節を映す、料理と皿のイマジネーション~(植木将仁 Restaurant UEKI)
●お茶と料理のペアリング(大橋直誉 Tirpse)
●Chef’s High(須賀洋介 SUGALABO)
●(地元で地元の素材を見て生かす立場で)(伊藤勝康 ロレオール)
●世界料理学会 in ARITA開催報告(秋山能久 六雁・寺内信二 ARITA PLUS)
●世界に誇りし日本料理 RyuGin History 2016(イカ)(山本征治 日本料理 龍吟)
◆第2日目(9/6)
第1会場
●イカメシdeフレンチ~町場のレストランからの発信(平山憲 ビーズ・ビー)
●地方レストランの楽しみと苦しみ(大田舟二 レストラン ニコ・奥田政行 アル・ケッチァーノ)
●イカの生態と高鮮度化(桜井泰憲函館頭足類科学研究所)
●オー・マイ・ラム 羊飼いと料理人(高橋毅 ラ・サンテ)
●ガガン・キュイジーヌにおける日本の影響influence of Japan in Gaggan cuisine)(Gaggan Anand ガガン・アナン タイ Gaggan)
●One man’s trash,another man’s tresure(川手寛康 フロリレージュ)
●あおり烏賊でみる、日本料理の伝統と革新(植村良輔 料理屋 植むら)
●ル・ミュゼ 美の世界(石井誠 ルミュゼ)
●人、土、水、蓮根、加賀料理(高木慎一朗 日本料理 銭屋)
閉会挨拶(深谷宏治)
第2会場
●トークセッション・日本ワイン(玉村豊男・辰巳琢郎・田辺由美・平川敦雄)
●トークセッション・EVOLUZIONE!日本でイタリア料理を作るということ。(横江直紀・當間一貴・岩坪滋)
●トークセッション・中国料理における酢の活用法(田村亮介・山本真也・東浩司・佐藤貴子)
●トークセッション・津軽海峡圏の料理人(澤内昭宏・関川裕哉・鈴木辰徳)
イカの生態や調理法など、今回のテーマに沿った具体的な話は、主に第2日目に行われた。
第1日目のオープニングセッション「いま料理人に突き付けられている刃~素材・環境・経済~」で話し合われた内容が、結果的に今回の学会全体のテーマとなった感じだった。
サブタイトルの素材・環境・経済。
素材を支える環境、環境を支える経済と、三つの要素は、料理を考えるとき、どれもつながっていて切り離せないものだ。
食材のサスティナビリティ(持続可能性)問題は、フードロス問題とあわせて、第1日目の発表全体で挙がったテーマだ。
昔は「いかにしておいしい素材を争奪するか」が料理を作る人たちの課題であったのが、日本においては流通が発達しその悩みがなくなったこともあり、現在は、「食材を今後もずっと変わらず使い続けていくためにどうしたらいいか」という考え方に変わってきているという。
その解決策として発表であがったのが、地方・地元の食材を生かしていく考え方だ。
伊藤勝康さん(ロレオール)の発表は、自店では出来る限り地元の食材を使っているという実例があげられた。
伊藤さんは、岩手・田野畑村の食材を用いて、レストラン「ロレオール」を開業。そして、そこから地域の人たちと食でつながる「食育授業」なども手がけているという。
それがレストランの特徴となり、同時に地元の食材を生かす、そして地元の経済を回す、という循環ができることが示された。
地元の食材を生かして地方振興というと、その代名詞のような、アル・ケッツァーノの奥田氏の名前が思い浮かぶ。
奥田さんは現在、庄内の食文化を背景とする料理理論を著した著書「食べもの時鑑(じかん)」刊行準備中とのこと。そしてその本を中心として、美術館の協力やイベントなど複数の企画が動いていることが紹介された。
地元からの発信が「日本の血流を良くする」というのは、奥田さんの実感によることばだろう。
奥田さんも伊藤さんも、地方から料理を通じて、地元にさまざまな働きかけをしている人たちだ。
セッションのなかでも、「地方の町に良い料理人を呼ぶと、食材も集まり、地方を発信するかなめになる」と、料理人が地方の経済を変えられる時代になったという考え方が話されていた。
地元の料理人が地元の食材を生かす立場の人があれば、東京にいて、地方の食材を探す人がいる。
ディスカバリー(発見)、コラボレーション、コンサルティング、レストランという4本の柱でレストラン「SUAGLABO」を経営する須賀さんは、ひと月に3日間、スタッフと食材探しに地方に出かけているという。レストランを不定期営業にしないとできなさそうではあるけれど、継続して行われていることには意味があると思った。
須賀さんの話のなかで、魅力的な食材をどうやって探すかの経験談として、その土地固有の食材がほしいと思った場合、おすすめを自治体に訊くのではなく、地元の料理人さんにコンタクトを取るのだという。SNS時代で、現在はそれがとてもやりやすくなった例が紹介されていた。
今回の海外からの参加者チェレ・ゴンザレスさんはスペイン・バスク地方出身。
ホテルやビルバオのNeruaなどでの勤務を経て6年前にフィリピンに移住、ガリシアなどスペイン北部の伝統的なタパスを出す「タパスルーム」と、ファインダイニング「ギャラリーバスク」をオープンした。
フィリピンにはガストロノミックなレストランがなく、地元の食材を発掘する手法も確立されていなかったそうだ。
開業当初はスペインから輸入した食材でほぼまかなっていた。それは客である富裕層の好みでもあったという。
そこから、1000年の歴史がある地元フィリピンの食材を少しずつ発掘していったそうだ。
いまはレストランで使われる食材の95%はフィリピン国内から調達しているという。
食材はもちろん、料理も地元フィリピンからインスピレーションを受け、酸味の強い料理を作ったりしているそうだ。
自国と違う国でのレストラン経営では、シェフの母国の料理と、現地の料理とをどのように取り入れるかは永遠の課題となっているように見える。
台湾と香港に支店を構える龍吟の山本さんは、海外2店舗においては「日本料理のよさというよりは、海外の食文化の良さを伝えること」を考えているとのことだった。
日本の食材を海外に輸出することについては、日本茶を例にあげて大橋直誉さんが述べていた。
日本茶は製茶するときに洗浄しない。その残留農薬量が極めて低く設定されているEUなど諸外国には輸出ができないのだそうだ。(参考資料;東洋経済ONLINE「日本茶輸出『倍増計画』、カギは中国だった)
5月3日・4日に「料理と器のマリアージュ」というテーマで行われた料理学会の2日間をコンパクトにまとめたビデオ上映。
それぞれの発言者の主題や高沢義明さんの熱唱、寺内信二さんと徳吉洋二さんのちゃぶ台セッション、植村さんの男泣きまで、硬軟とりまぜてまとめられていた。
このビデオで、学会に行けなかった人も見どころがあまさずおさえられたかと。
第1日目の最後は恒例の、龍吟山本さんの動画。
冒頭で紹介されるかと思ったいか…ではなく、有田でのフグ発表に続き、今回は境港の松葉蟹について。
これは会場で流された動画がそのままYouTubeで公開されている。
2日目のトークセッションは、具体例が多く挙がって興味深い話題が多かったそうだ。