Fäviken Magasinet(フェーヴィケン マガシーネット) ストイックなワンダーランド

【2015.8追記】
2度目の訪問記、こちらです。
いろいろ変わってました。
Faviken Magasinet、2度目の訪問

—————
ノルウェー・トロンハイム空港からスウェーデン国境を越えて140km、2時間15分。
ひらけた緑色深い丘陵と牧草地のまだらもようのあいだを、車は快調に飛ばしている。

今回、私は、オスロートロンドハイムというノルウェーの路線を飛んで、そこからクルマで国境を越えた(通常ならばストックホルムーオステルスンドを飛んで、電車でオーレまで移動した方が行きやすい。オーレまでなら送迎も頼めるとのこと)。
前泊地ブリュッセルを朝6時に出て、19時一斉スタートのディネに間に合わせるため、飛行機×2本、バス×2本、電車×2本、クルマ2時間15分でざっと12時間の長丁場だ。

舗装されていない道に入って間もなく、Favikenらしい建物が遠方に見えてきた。

画像1

すぐに、建物からサービスの女性が出てきて、建物内を案内してくれる。客室は現在5室。
「ディネのあとのCopper Hillまでのタクシーは手配してあります。
荷物はここへどうぞ。時間までシャワー浴びますか?」
レストランのサービスというよりはホテルのサービスのような感じで気を遣ってくれる。
他のお客さんも三々五々、シャワー室でサウナに入ったり、外のテラスで飲んだりして、19時まで思い思いに過ごしているようだ。

写真でけっこう見ていたけど、実物を目にするとやはり写真ではわからないこともあるな…と感じる。
夏至でまだ明るい外光が入ってきているけど、窓が小さいので部屋の中は暗く、暖炉には火が燃えている。その暗さと明るさが室内に光の印象的なコントラストを作っている。

Favikenが話題になり始めたのは、サンペレグリノの世界の50ベストレストランの34位に入ってきた2012年ごろのこと。
今でこそFigaro japonのような一般誌でも紹介されるようになったけど、アクセスに公共交通機関はなく、行きづらいレストランであることに変わりはない。

このレストラン、もとは酪農学校だったらしい。

静寂。
遠くからときおりパーン、パーンと、猟銃を思わせる乾いた音が聞こえる。

19時までには今日のお客さんが1階に全員集合。
今日は全部で12名。全員2名で、男性2人組も2組。ロンドン、カナダ、ストックホルム、などなど。みんな、はるばるうまいもん食べに来たぜオーラがある。

画像4

アミューズを頂いたあと、2階へ案内される。
料理は毎皿、階下のキッチンからシェフ以下3人くらいで小走りに運んでくる。
手短にシェフが料理の口上を述べる。火の入り具合のベストなタイミングは短い。それを全員が待ち構えて食べる。
そのテンポが、自然と料理に集中するリズムになっている。

画像3

地衣類のフリット。
地衣類とは苔に似た植物のこと。香りや食感はワカメや海藻類に近い。
この土地の特徴をより身近に想像させるものとなっている。

画像6

穀類のお粥に、苔類で濾した牛のフォンを注いだ料理。
苔類で濾したフォンは、当たり前だけど苔の土臭さが追加されてしまうので、濾さない方が絶対においしい。なのにこのお粥に注ぐと、なぜか臭みが滋味に変わっている。
マジカル!
味の完成度としてマイナスに働きそうなものをあえて追加する、成功するレンジの狭いものにあえて突っ込むシェフのスピリットを感じる。

画像5

タラ。
ギリギリの火入れ、塩分はほぼ無し。
この前後、オマール、鯖、タラと海産物が続くのだけど、ここは海からどんだけ遠い山奥なんだ…と一瞬考えてしまうほどの鮮度のよさ。というか、これまで食べた5本指に入るくらいのが続く。つい20年くらい前まで、フランスでも、新鮮な魚がレストランに入荷するのは週に一度だったという聞いた話を、この山奥ですごい鮮度と火入れのタラを食べながら思い出してくらくらする。

もう、流通と保存における地域的なディスアドバンテージは完全になくなっている。

マグヌスシェフは、07年ごろまでパリのアストランスで働いていたそうで、カンテサンスの岸田周三シェフと同僚だった時期もあったらしい。あの頃のアストランスの先進的な都会の味を思い出すと、それがいまスウェーデンで新しい花を咲かせていることに、ある種の感慨を覚える。

繊細な火入れ、ミニマムな味付け、圧倒的な鮮度、この地に根ざした食材。

たくさんのバター、たっぷりのソースといった過剰なものに豊かさを見出す時代ではなくなった…という明確なメッセージを、ここで改めて感じた。そのメッセージが了解できれば、世界でいま最先端かもしれない食のワンダーランドはこの地に確実に、ある。

Fäviken Magasinet
http://favikenmagasinet.se/

(2013.6)

↓このFigaroに、Favikenのレポ載ってます。薄いので、旅行のお供にも。
専門料理のスペシャリテ2013は8月発売。南米特集と、ニューノルディック第二世代特集。

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Fäviken Magasinet(フェーヴィケン マガシーネット) ストイックなワンダーランド」への10件のフィードバック

  1. ご連絡有難うございます。無事にいらっしゃったんですね!大変な道のり、そのノルウェーからスウェーデンまでのドライブ中が快適な旅でいらしたようなのでホッとしました。
    今回教えて頂いたことで早速トロンハイムに住む友人たちに自慢話かのようにしてしまいました。そんなレストランがオーレにあるだなんて本当皆知らなかったです!
    これからも拝読させていただきます。美味しいものを沢山発見して引き続き楽しませてくださいませ。

  2. 読んでいただきありがとうございました^^
    予約がなかなかとりづらいのですが、ぜひいらしてくださいませ。おいしかったですよ!
    現地にお住まいであれば、旅行者と違う視点でごらんになれる部分も多いのではないでしょうか。

  3. はじめまして、「こけぐらし」のatsuといいます。
    ブログ訪問とコメントいただきありがとうございました!
    牛のダシを苔でろ過して土臭さをプラス!のあたり、大変興味深く拝読させていただきました。
    苔好きとしては見逃せないこの記事、ぜひブログ内で紹介させていただきたいのですがよろしいでしょうか?

  4. コメントありがとうございます。ご紹介くださるとのこと、ありがとうございます。苔の香りを移す牛のダシは、それだけ飲むとホントに苔臭いんですよ。お粥に焼いたコメのような穀物が入っていたので、その香ばしい香りが臭みだけマスクしているのか、不思議な体験でした。

  5. はじめまして。
    ファビケンに関する記事がなくて、とても参考になりました!
    ありがとうございました。
    本国のサイトとレストランへの問い合わせだけでは、本当に辿り着けるのか不安で…笑
    6月にいってきます。(^ν^)
    全然関係ないですが、ブログのトップ画像は、バンコクのナームのアレンジですか?

  6. Yuさん
    コメントありがとうございます!
    再来月に行かれるのですね。うらやましいです。その頃は現地は白夜ですね。
    私はトロンハイムから国境を越えてお店に向かったのでたどり着くまで大変でしたが、通常であれば、ストックホルムからエステルスンドまで飛ぶ方が楽だと思います。(事前に頼めば、お店からの送迎もあったように思います)
    環境も料理も素晴らしいですが、他のお客さんも一体となって楽しむので、その方たちとの交流も楽しめます。総合芸術のようなものですね。きっと冬にも行きたくなると思います。何かご質問があればメッセージくださいませ。よい旅を!

  7. ありがとうございます(T_T)
    来週デンマークにいくのですが、昨日nomaもキャンセル待ちがとれました。
    ブログ拝見しないときっと場所迷ったと思います笑
    マグナスニルソンの本をみてずっといきたかったのですが、日本の方のレコメンドがあまりなく、行こうっていうきっかけになりました、貴ブログが。
    また質問があったら、ご連絡させていただければ幸いです。

  8. Yuさん
    nomaも!良かったですね!!
    レネのフォロワーのお料理は近年たくさん出てきましたが、それらを頂いてなお、nomaの料理は完成されていると思いました。
    レストランは行きどきというものがありますので、今行けて幸運だと思います。
    ご旅行に際して何かご不明点あればいつでもどうぞ(^ ^)

  9. 少し前になりますが、お陰様でファビケン行ってきました。
    とても素晴らしかったです。
    あの環境が感受性を開かせる部分もあるかと思いますが、正直、nomaよりもずっと感動してしまいました…(^v^)
    その後、仕事でストックホルムにいたのですが、会う人会う人、いきたいの!と言っていて、みんな関心あるのだなぁと思いました。
    朝ごはんも素晴らしかったです。
    美味しいものは世の中たくさんあると思いますが、命を食むというか、素材に対する繊細さ、リスペクトみたいなものがひしひしと感じられて、格別の時間前でした。
    このブログを拝見しなかったら、どうやって行くの〜と怖気付いていたと思います笑 本当にありがとうございました。
    また、来月アンドレもいってきます(^v^)

  10. Yuさん
    楽しまれたようで良かったです!
    景色と食事が一体になった総合芸術的な素晴らしさは、行ってみないとわからない部分も多いと思います。写真より実際の方がずっと良いと感じました。
    お仕事でもあったのですね。食に興味のあるかたは皆さんここは関心があるようですね。

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