Passage53、4皿60ユーロ、お昼の軽いコース。
皿数が少なくても、夜のデギュスタシオンと精度は変わらない。
最初のコンソメ。
軽やかで上善水の如し。
佐藤伸一シェフの料理を初めて食べる人も、もうここで味の方向性が見えるというもの。繊細な料理を作る人は繊細なコンソメ、力強い料理ならば肉系のしっかりしたコンソメになるから。
牡蠣。
蒸してフォアグラのテリーヌと合わせてある。二種類の違う旨みをぶつけて、皿の中でよくケンカしないなと思う。フォアグラをとても薄くして、主従をはっきりさせているからなのかな。
続くホタテ、メインの仔牛のパイ包み焼き、どちらも主役の精度は言うまでもなく。特に、付け合わせのジュレやサラダの酸味の差し方が冴えている。ひと皿のバランスとして、主役を支え味の変化をつける不可欠なピースになっている。ただの賑やかしではない。
どれも、繊細で、軽い。ワインを合わせて酩酊するにはもったいないと思うくらいだ。
ところで最新号のJAL機内誌スカイワード(2015.1月号)のパリ特集「二つの”食”が出会う時」に、佐藤シェフのインタビューが出ていた。
「どこにでもある食材で、誰よりも美味しい料理を作る。そのために、命を削って厨房に立ってますから」
「命を削って厨房に立」って生み出される料理ならば、こちらも、精神を削って料理に向かわなければと思う。そんなことしたくないという人は、多分、他の店の方が合っている。
ミシュランで星を取っているようなシェフに、命を削って厨房に立ってない人なんていないと思うけど、それを伝えない料理と伝えてしまう料理がある。佐藤シェフは後者。その突き詰め方に感応して、ともすれば、食べる側である自分の本業が、ここまで突き詰められているかの反省までしそうになる。そこにあるのは酩酊でなく覚醒だ。
そこまで真剣に食べるのは、正直しんどいときもある。
しかし、そのシェフの思いにうまくシンクロできれば、感情を揺さぶられるような体験をすることができる。そして、料理でそれを生み出す才能を持っている人は限られている。
料理は一昨年訪問したときと同様、あるいは更に洗練され、まるで懐石料理のようだ。
この感覚は、北海道出身の佐藤シェフ同様、北海道を拠点とする横須賀雅明シェフ(札幌「Miya-vie」)の料理にも通じるものがあるとなんとなく感じた。
かたやパッサール(直接的にはパスカル・バルボでしょうが)、かたやレジス・マルコン、あるいはブラス、修業先は違うけれど、最終的には、豊かな食材を生み出す北海道の、選んだ素材への圧倒的な信頼感…のようなものなのか、技術の前に素材を信頼しているようなスタンスが共通している気がする。横須賀シェフのお店は北海道だけれど、佐藤シェフは遠く離れたパリだ。そんなアプローチで出される料理を、当のフランス人はどう感じているのだろう。
食後、お土産のお礼に外に出て来て下さった佐藤シェフの笑顔は、透けるように白く見えた。
そのとき、まだこの機内誌は読む前だったけれど、なんとなくシェフが料理で命を削ってる感じがして、ハッとしたのを思い出した。
佐藤シェフ、どうか本当に命は削らないでください。
Passage53
53 Passage des Panoramas 75002 Paris
12:00〜13:00,20:00〜21:00
日月休
+33-1-42-33-04-35
予約はお店に電話で。3ヶ月前位なら取れるかと。キャンセル待ちも受けて下さいますが、取れるかどうかは望みの少ない賭けです。リコンファームはお店に数日前までに。
スカイワード入手方法
JAL機内(国内線・国際線)で1月いっぱいまで配布。
今は購入もできるようです。→こちら
国際版にはnomaのシェフ、レネ・レゼピのインタビュー(英語)も。