「オラ!!」
お昼12時。
30人近くの若手料理人たちの一斉の挨拶に、こちらも身が引き締まる。
厨房に案内されると、料理人たちが挨拶して迎えてくれると聞いていたので、みんなが口々ににこやかに「オラ~」と挨拶してくれるのかと思ったら、違った。
仕込みも佳境で、厨房からはピリピリした緊張感が伝わってくる。
Azumendiはビルバオ空港から南東へ車で約15分、高速道路わきの丘の上にある。
3年ほど前に改装が行われ、以前の店の坂の上にガラス張りの現在の新店舗が出来た。
起伏の大きな地形を生かして建てられた店の周囲には、ビニールハウスや菜園があり、オリーブなどの果樹が整然と植えられている。
建物内部に入れば、2階まで吹き抜けのレセプション。丈の高い植物が植えられ、バスクの山小屋でピクニックを楽しむような趣向だ。
最初のアミューズはまずここで。
かわいいピクニックバスケットで出て来る。
しかしここは3つ星レストラン、実際はそのように牧歌的にはいかなかった。
ガラス張りの厨房に近い私たちの席からは、厨房の中がよく見える。
「Oui,Chef!!」のような、料理人たちの短い一斉唱和がときどき挟まるのが聞こえる。
レベルが全く違って恐縮だが、「よろこんで!!」という例の掛け声を思い出す日本人の私たち。
お昼のコースは「Menu Erroak」(145ユーロ)と「Menu Adarrak」(175ユーロ)の2つ。
Erroakはバスク語で「ルーツ」、Adarrakは「枝」という意味らしい。
見たところErroakの方がクラシックメニューのようで、Adarrakより品数がいくつか少ない。
半分くらいのメニューは両者共通だ。
カルトはなく、すべておまかせとなる。
レストランというよりは、最初の厨房見学から始まって、一連の流れを楽しむテーマパークのようだ。菜園を案内するところまで最初からセッティングされて、そこでアミューズを頂くときもあるらしい。
ちなみにAzurmendiは2011版で2つ星、2013版で3つ星となった。
ビルバオのあるビスカヤ県で最初の3つ星。エネコはスペイン史上最年少の3つ星シェフとなるらしい(1977年生まれ)。
店全体から、上り調子にあるレストラン特有の、緊張感のある空気が感じられる。
Menu Adarrak
Homemade salted anchovy millefeuille
Roe and dill
CaipiriTxa(Caipirinha)
***以上ピクニックボックスの3種***
Hibiscus infusion
Mushrooms leaf(鹿のコンソメ、トリュフ、オリーブ)
Frozen olive and vermouth
Egg from our hens,cooked inside out and truffed
Oyster,tartar and gelee(オイスター、エシャロット)
Natural Spider crab,emulsion and infusion(毛ガニ、ウニ、トマトのコンソメ)
Tomato and eel
Roasted lobster out of the shell on herb oil and chives(ロブスター、オリーブオイル、コーン)
Artichokes and pesto(アーティーチョークとイディアザバルのボンボン)
Stewed wheat with farmhouse milk emulsion and ox tail(オックステールのラビオリ)
Roasted red mullet on vine shoots,fried eggs and the broth of the bones(ルジェとルジェのスープ、カリフラワーの付け合わせ)
Foie gras,spring onion and cherries(フォアグラとダイキリのゼリー)
Coconut and passion(ココナツとパッションフルーツ、異なる作り方で、バジル)
Cheese,red fruits and mint
Sheep milk and black olives(ブルーチーズケーキとイディアザバル、ラズベリーのアイス)
Petits fours
調理台のうち、最も客席に近い盛り付け台にシェフのエネコがいた。
いまどきのモダンスパニッシュは、シェフは火の前ではなく盛り付け台にいることが多い。
シェフを含む5人ほどの担当者が、一人一つの食材を、決められた順番で盛り付けていく。
全員の動きに一つも無駄がない。
冷凍庫の食材を、ジャストのタイミングで盛り付け係に差し出すだけの役割の人がいる。
そして、その次くらいに自分の役割があるらしい人は、全員、手を腰の後ろで組み、足を軽く開く姿勢で立って待っている。
ここまで一挙手一投足を管理しているのか!
そこまでする理由はすぐに解けた。
一つ一つの料理の精度がものすごく高いのだ。
精度という点だけで言えば、エネコの師匠でもある同じ3つ星、サンセバスチャンのマルティン・ベラサテギより隙がない。
マルティン・ベラサテギで笑いが出るほどおいしかったルジェ。(2010年)
Roasted red mullet on vine shoots,fried eggs and the broth of the bones
こちらは今回のルジェ。どちらも甲乙つけがたし。
すぐに、2010年に食べたベラサテギのこのルジェを思い出した。
ソースはミニマム。付け合せのカリフラワーがアルギン酸で固めてあるあたり、ただ目新しさだけのように見えるが、実際は味と食感のバランスが考えられてぴったりなのがわかる。食感の印象はルジェに譲って、味だけを考えて脇役に徹している。
Natural Spider crab,emulsion and infusion
カニの下はウニ。鮮度は言うまでもない。
トマトとパプリカソースの色が鮮やかだ。
ちなみにこの皿はガラス製。こんな派手な皿に負けない料理は難しいのではと思うし、そこにこけおどしでなくおいしいと思わせる料理を持ってくるのは、相当に難易度が高いのではと思う。
ベラサテギでの皿はすべて白い皿で統一されていたので、こちらの、ガラスあり、木製あり、陶器あり、シンプルな皿凝った皿を自由に使い分ける感じは新鮮だった。
Roasted lobster out of the shell on herb oil and chives
透明でシンプルなガラスの皿に、色鮮やかなグリーンのオリーブオイルと薄いコーンにロブスター。
ロブスターのちょっと半生なギリギリできちっと止められた火入れ。
コーンの中はイディアザバル的な何か。
メインは肉にあらず、フォアグラ料理だった。
外側は何かでキャラメリゼしてあるようだ。
バスクのすぐ隣のランド地方はフォアグラの名産地なので、バスク料理にはフォアグラ出現率が高い。
バスク(店のすぐ近くのララベツ)で生まれ育ち、バスク料理を展開するシェフの、バスク料理への思い入れが感じられる料理だ。
Coconut and passion
Sheep milk and black olives
ポストレもさりげない感じだけれどどれも良かった。
ここは、2010年にベラサテギに行った頃からずっと行きたいと思っていたレストランで、個人的には、1つ星、せめて2つ星時代に行っておけばよかったと後悔した。
3つ星となると内外の注目度は段違いで、いろいろな国の客が来る。お店の対応も手馴れたものになってしまいがちだ。確かにそうしないと客をさばいていけないだろう。
エネコシェフは挨拶には出てきてくれたけれど、バスクへの思い入れについて、もう少し話を聞いてみたかった。
それでも、この超絶技巧の料理は、生粋のバスク人シェフが作るバスク料理の完成形として、今食べておくべきではないかと思う。
Azurmendi Restaurante
公式サイト→こちら
Legina Auz., s/n
48195 Larrabetzu,Bizkaia
TEL+34 944 55 88 66
予約は→こちら
元Azurmendiがあった建物は現在ビストロBistró Prêt À Porter(38ユーロより)となっており、こちらはビブグルマンに認定されているようだ。