前回の巴蜀さん訪問記(2015.8)は→こちら
博多の四川料理店「巴蜀」で新年に行われた食事会に呼んでいただき、二つ返事で博多へ向かった。
ハクビシンがメイン料理で出ると知ったのは会の前日だ。
食べるのは初めて。特定の日に狙って手に入る食材ではない。シェフがそのような珍しい食材を出そうと思う、今回企画された常連さんの「引き」に、私もあずかった形だ。
何にせよ、新年から運がいい。
今回のメニューは以下の通り。
新年に四川に帰省されていたシェフ荻野さんが持ち帰ってこられたという食材もあちこちに。
最初のおつまみ10種
・地皮花生
・口水鶏
・投影苕片
・豆苗鶏蛋干
・紅油参面
・投影牛肉
・香炸腰果
・干収腐竹
・焼椒皮蛋
・煮涼粉
干焼海参
五穀蒸魚
干夢卜焼果子狸
樟茶鴨子
豆花麺
覇王花炖鶏
冰粉
メインの干夢卜焼果子狸(ハクビシンの煮込み)。
ハクビシンの骨のだしをベースに、干し大根と乳酸発酵させた唐辛子で煮込んであるらしい。
唐辛子は乳酸発酵されたものを2種類合わせてあるそうだ。
シェフ荻野亮平さんは、唐辛子を発酵させて自家調味料を作っておられる。
料理の味を決め、複雑な風味にしているのはこの調味料たちだ。
今回の会の隠れたテーマは「発酵調味料」。
だから、今回はスープも主役だ。
口に入れると、干し大根の香りが先に立ち、そのあとに柔らかい唐辛子や胡椒系の香り、その次にハクビシン独特の獣っぽい香りがくる。
ハクビシンの肉の味は、牛とも猪とも豚とも系統が違っていた。
脂の味は熊に似ている気がする。
食感は、少しねっとりしている。
ハクビシンはジャコウネコ科の哺乳類で、中国料理では特に南部で珍味として食べられてきた。
このような珍味系の食材は、歴史上の経緯はともかく、今は動物保護の観点から「実は食べちゃダメなんだよね…」というのがときどきある。
たとえば、広東料理のご馳走の筆頭であるナポレオンフィッシュもそうだ。
ナポレオンフィッシュは、現在、国際自然保護連合のレッドリストで「絶滅危機」種とされている。香港でも食べないよう呼びかけられている。それでもときたま「偶然網にかかった」というていで提供されることがある。
これらのハタ科の魚は〆てすぐ調理しないと臭みが出るそうで、しかも大型魚だからお値段も張る。
そうなると必然的に、ナポレオンフィッシュは「大人数で行ったときに」、「偶然在庫があって」、「参加者の合意が得られる」という、条件が重ならないと食べられない珍味となる。
ハクビシンはどうなのだろう?
結論から先に言えば食べていいらしい。
ハクビシンは里に下りてきて枇杷など果樹園の果物を食い荒らすため、害獣指定されている自治体もあり、被害があれば狩猟が認められている。
それなのに何となく食べるのに後ろめたい気がしたのは、ハクビシンがかつては天然記念物に指定されていたからだろう。
今回のハクビシンは四国で捕獲された個体だった。
荻野さんいわく、
「毛抜き以外の下ごしらえは比較的楽でした。肉の臭みがほとんどなかったです」。
下ごしらえの労力のほとんどは、味付けではなく、数時間かかる毛抜きなのだそうだ。
煮涼粉
えんどう豆のでんぷんを寒天状にかためたもの。
豆っぽい青くささと味付け濃い目のそぼろの取り合わせ。
干焼海参(なまこの醤油炒め)。
複雑な味付けは、乳酸発酵させた2種類の唐辛子。
なまこの食感もこれまで頂いたことがない柔らかさとぷりぷり感が同居している。干して、もどして、と多くの工程をふんでいるそうだ。
五穀蒸魚(ゴマハタの蒸し物)。
お腹に古代米の蒸し物が詰まっている。
魚は前日に〆ていて、旨みが濃い。
ハタは広東料理の「清蒸(チンヂョン)」の場合、紹興酒と醤油のあっさりした味付けがポピュラーだが、こちらだと旨みとコクのかけあわせだ。
そもそも、ハクビシンのような臭みのある食材がこれまでなぜ食べられていたのだろう。
今回も、ハクビシンの獣くささは、干し大根や山椒の香りでマスクされていた。
ハクビシンはタヌキなどと比べても肉の臭みはないということだけれど、独特の獣くささはないとはいえない。それがダメな人もいるかも。
それでも鼻から感じる香りと別に喉から上がる旨みや香気のようなものがあり、その香りの複雑さを求めて…ということなのかもしれない。
そういう意味で、今回初めていただいたハクビシンは忘れがたい味だった。
成仏しろよ・・・
四川料理 巴蜀 (しせんりょうり はしょく)
福岡市博多区東月隈4-2-11-3
TEL092-503-8849
定休日 火曜日、第3水曜日
博多駅から路線バスで30分。福岡空港からなら15分程度。