入った瞬間から、いける、という感覚があった。
これから数時間、楽しいひとときを過ごせるか。
初めて入るレストランはいつも不安だ。事前に料理の味やおすすめのメニュー、雰囲気などを知ることができなければなおのこと。
それでも、席に座って、これは大丈夫と思わせる空気感というのは確かにある。
理屈ではなく、たぶん肌感覚のようなもの。
スタッフの動きに無駄がない。でも雰囲気はピリピリしておらず、なごやかだ。
ちょい暗めで装飾を排した、倉庫に作られたギャラリーのような、いまどきのソリッドな内装、奥の明るいオープンキッチンがまるで舞台のように、テーブルのお客さんの顔を淡く照らしている。
今回の台北は、1泊2日の短い滞在ということもあり、いつも行く大好きな屋台や小籠包などの小吃店をすべて捨てて、西洋系の店で固めた。
シェフのErnest Tohさんはシンガポール出身、着任してまだ1ヶ月弱という。コペンハーゲンのAmassやRelaeで修業経験があり、ノルディック料理に思い入れのあるシェフだ。
ノルディック料理を台湾で展開するとどうなるか。また、台湾のローカル食材をどうやってガストロ料理に落とし込むのか?
ここNKUの料理は、そのひとつの答えとなる。
店名のNKUとは、Nordic、Keep、Uniqueの頭文字。
オープンは2016年だ。
ここは薪焼き料理が売りで、店の奥に窯がある。現在は薪焼き窯は使われてなくて、炭焼きに燻製香をつけて提供している。
料理はコースのみ2種類。
1,500TWDで6皿か2,300TWD”Omakase”7皿。1,500ドルということは、夜でも¥5,000そこそこだ。
メニューを渡される。漢字と英語。説明が詩的でいいねえ。
開 Bread and Bites
Bread and appetizer
蔬 Not always A Salad
A Grobal approach to local produce
山 Formosa Mountain’s Gift
An abundance of flora in Taiwan’s mountainous region,
we present common and specialty products
海 Fruit de Mer
An island nation,seafood is a big part of Taiwanese culture,
We feature only the wild caught and sustainable babies of the sea.
火 Man vs Meat vs Fire
Lycee wood perfumes our meats anmd we cook and serve them with respect to the product.
甜 There’s Always Room For Dessert
Life is always freat with a sweet ending
同じ食材でも、日本のものとも、香港やヨーロッパのものとも違う。南国特有の素材のえぐみ、えぐみで言葉が悪ければ力強さがある。
それをまとめる燻製香。燻製香ってそういう使い方があったか。
燻製香に弱いという個人的ひいき目を排除しても、その素朴な食材の、味の立ち方に驚く。
なぜ素材の味が立って感じられたかというと、答えのたぶんひとつは、素材の一部にだけ燻製香をかけていたからだ。
山 Formosa Mountain’s Gift
ねっとりシャキシャキの山芋。土のものの泥くさい素材が、洗練された前菜になった。
山芋をキャラメリゼして、ピクルスとオクラの種とディルにクリーム系ソース。甘いと酸っぱいの組み合わせ。
何か一部分の香りだけが、口の中で弾ける。どうも、オクラの種とピクルスなのか、一部分の食材にだけ強く燻製香をかけてあるようだ。そのことが、料理全体を口に入れたときの味と香りを複雑化させている。
蔬 Not always A Salad
キクイモ、マッシュルームはマリネしてある。それからちぢみほうれん草と舞茸。
塩味はほうれん草にしかかかってない、淡くてメリハリのある味。
油の香りと燻製香が効いている。
海 Fruit de Mer
イワシ、トマト、すもも、パイナップルのサラダ。ソースはシャンツァイの香り。
味付けそのものは淡い。そのかわり香りが強い。
これも、イワシだけに燻製香がかかっている。シャンツァイの香りに負けていない。
火 Man vs Meat vs Fire
メインは牛肉。オニオンソース。付け合わせはチェリーとトマト。
サシが少なく、うまみもおとなしめ。個性の強い前菜に比べて、手堅く、品良く、ノーマルな感じだ。
甜 There’s Always Room For Dessert
ヘーゼルナッツアイスに、ストロベリー、トリュフオイル。
実力が出やすい火を入れるケーキやクッキー類ではなく、中華デザートでもなく、果物とアイスで、台湾のベタな感じのしない、浮遊感のあるデザートだ。
「調査員ですか? 来ましたよ」
そりゃそうさ、という感じのシェフの口調。
気負いがなく、フラットだ。
その気負いのなさやフラットな感じは、お店の雰囲気ともなんとなく通じるものがある。
最初、シェフが誰なのか、厨房を見ていてわからなかった。
厨房の5名の動きが、比較的均等だったからだ。
盛り付けに時間を要する料理は、全員が均等な役割の仕事になりやすい。それが役割分担のはっきりしている上意下達的な感じではなく、フラットな雰囲気を作る1つの要素となっている。
ちなみに厨房は台湾語でなく英語だった。料理説明をしてくれるサービススタッフの英語も、みんな聞き取りやすく滑らかだ。
モダンノルディック料理が各国の食材で解釈されて、他国に移植される時代がやってきた。
ここはモダンノルディックのなかでも、燻製香のインパクトを生かすことでひとつの個性としている。
ここ数年、例えば2014年の「RAW」オープン以降の予約の殺到ぶりや、日本国内のレストランへの台湾からのお客さんの多さなどを聞くにつけ、西洋系のレストランがこれまで必ずしも豊富でなかった台北に、少しずつこのような店が増えつつあることを感じる。
個人的にも、昨年11月に訪れたタイロワールでのコラボイベントや、今回いくつか訪れた店で、それらどの店も繁盛している様子を目の当たりにした。
ここNKUは、日本国内の知名度はまだまだながら、そんな「機が熟した」感のある台北の、これはもうスタンダードな一軒だ。
折しもこのたびミシュラン30冊目にあたる、ミシュラン台北2018が発刊される。
発表は明日、3月14日だ。
nkụ(柴燒餐廳)
https://www.facebook.com/nkufirewood/
https://www.insTAGSram.com/nku_firewood/
台北市仁愛路四段300巷26弄13號
+886 2 2701 8025
12:00〜14:30、18:00〜22:00
火曜休