レストランの立地が、全体のイメージを決めるのに重要な要素であることは疑いがない。
流通が発達して、例えば「漁港のそばの魚料理店だから圧倒的なアドバンテージがある」という時代でなくなった今でもそうだろう。
それなのに、いまだに、漁港のそばにあれば魚料理がおいしそう、と食べ手が勝手なイメージや期待をしてしまうのは今もあまり変わっていないような気がする。
食べる側の意識は、そう簡単に変わらないものだ。
では日本にあってイタリア、ことにシチリア料理店の場合。
立地に似つかわしい場所はどこ?と聞かれれば、なぜかこの、逗子・葉山のあたりはとても似つかわしいと思えてしまうのは不思議だ。
なぜだろう?
両者は、山も海も近く、陽がよく当たり、高温多湿という気象条件を除けば、明るく温暖であるところはそっくりだ。
で、このPiscaria、魚屋という意味をもつシチリア料理店は、逗子駅から車で15分、葉山マリーナすぐそば、裏は徒歩2分ほどで森戸海岸、ほとんど「海の家」といってもいいような場所にある。
太い木材の梁が印象的な一軒家。
シェフの出雲択逸さんがこだわったセレクトらしい。
お昼のメニューは¥1,800。
Pranzo del Girono
Antipasti Misti(海の幸・山の幸いっぱい小皿の前菜6種)
Primi Piatti del Giorni(本日のパスタいろいろ)
Caffe o Te
内容は、おまかせ前菜6種類と、選べるパスタとドルチェ。
セコンドとして、アラカルトで、その日入荷された葉山近海の魚を1尾単位で注文し、ヴァポーレ(蒸し焼き)など好みの調理法で仕上げてもらうこともできる。サイズは2人でシェアでちょうどくらいの大きさ。
今回は石鯛、真鯛、金目鯛があって、それぞれ¥3,000程度。
このように席まで見せに来てくれる。
前菜。
今日はクスクス、豆のサラダ、イワシやしらす。
シチリアの典型的アペリティーボが並ぶ。
どれも作り立てのきらきらした感じ。よどみがない。
味付けは淡く、繊細だ。いくらでも食べられそう。元気な人も、元気のない人もきっと身体にすっと入っていく味だ。お客さんは地元の人らしい人が多かった。
お店の空気感がいいな。家族で、あるいは友人同士で、みんなくつろいだ顔をしている。
赤ちゃん連れの人も。ご近所さんかな。
パスタ。
選んだのは真イワシとフェンネルのカサレッチェ。
カサレッチェはシチリアの典型的なS字形をしたショートパスタ。イワシとフェンネルもシチリアでよく食べられる組み合わせだ。
2人でシェアをお願いし、もう1つは黒板から、ショートパスタのエーリケ、ラグー・ディ・マイアーレを選択。
明るいトマトソースに豚の肩ロース。今日は全メニューの中でこれが唯一の肉料理。
アラカルトで追加した金目鯛はヴァポーレで。
プチトマトの酸味が効いている。身は繊細で柔らかい。
たぶん日本ならではの淡さ。
オリーブオイルが滅法うまい。なぜだろう。オイルで全体の味が変わるのかな。
今夏に初めてシチリアを訪れるにあたり、ここを含め、都内のシチリア料理専門店を3日で4軒はしごした。
まず外苑前時代からおなじみのドンチッチョ(南青山)、シチリア出身のシェフのダニーノ(乃木坂)、シチリアで修業された大下竜一さんのシチリア屋(白山)、そしてここ。
この4軒、味付けの濃い薄いや洗練度は違っても、シチリアへの愛があるのはどこも同じ。
それほどに、シチリアという都市に独自性があって、人を引きつける何かがあるということなのだろう。
Piscaria
神奈川県三浦郡葉山町堀内918-20
046-802-8388
営業時間:12:00~14:00、18:00~21:00
定休日:月、第1・3火