イタリア・ミラノ「RISTRANTE TOKUYOSHI」(ミシュラン1つ星)の徳吉洋二さんの料理を、都内で頂く機会に恵まれた。
場所は先日のパリ「Passage53」の佐藤伸一さんのフェアと同じホテルニューオータニ。
東京と大阪で3日間ずつ。今回はお店のスタッフ9名を引き連れてのフェアとなった。
会場のベラヴィスタは60席あまり、ミラノのお店のキャパの倍近い。
一斉スタート。厨房が良く見える席だったこともあり、厨房の熱気が伝わってくる。
今回の料理は、ミラノで出している料理の再現というよりは、ミラノでのスペシャリテと日本の食材からインスパイアされた新しい料理と、両方の混成だ。
フェアのために事前に一時帰国して生産者訪問をしたそうで、ふだん使い慣れない食材を揃える大変さが感じられた。
Menu
SNACK
蒸しパンとバターとアンチョビ トルテッリーニ 野菜の涙
CARPACCIO
瓜科のカルパッチョ 砂の上の貝
PIADINA
うにとピアディーナ じゃがいもローストスープ
GYOTAKU
魚拓 松の実のミルク
ANGUILLA
うなぎと粉 エミリア街道のブロード
SALAD
アンナに贈るサラダ 2016 ごぼう茶
RISOTTO VERDURE
米ではなくて野菜 ミラノ風リゾット ビーフコンソメ
PASTA
Noto 緑オリーブと緑トマト
MAIALINO
森と池
MANZO
焼畑農業 焼とうもろこしのスープ
PANNACOTTA
なすのなかのなす
DESSERT
セメントと土 イチゴとトマト
ミラノのお店と同じように、どの料理にも、ひと口ごとのスープがつく。
ジュースペアリングに似ているが、それよりはずっと量が少なく、濃く、料理との関わりが深い。
おちょこサイズでひと口で飲み干す動作に、日本酒を想起させるのもねらいの一つだそうだ。
洋二さんの料理は、なに料理かと言われればイタリア料理だが、すでにイタリア料理の枠をはみ出しつつあると感じた。
以前の所属店であるモデナの3つ星「Osteria Francescana」は別として、洋二さんの料理をおととし、去年と食べてきて、さらに独自色が強まってきたように感じる。
どの料理にも、見せたいものが明確にある。
それはミラノ、日本、イタリア、故郷の鳥取など土地に根づくものだ。
ひとつ目は、ミラノの店のスペシャリテ。
魚拓 松の実のミルク
ミラノでは鯖だったから、そのときどきで食材は変わるみたい。
頭を墨で皿に描き、黒い身を開くと青魚の淡い色が現れる、その色のコントラストも見どころだ。
今回は鯵で。中にはホタテのクネル。
頭はあるけど実体はなく、身だけがある料理。
2つ目は、故郷鳥取へのオマージュ。
今回は日本でのフェアであり、洋二さんが地元鳥取県のふるさと大使に任命されているのもあるからか。
瓜科のカルパッチョ 砂の上の貝
砂はもちろん鳥取砂丘を見立てたもの。
トマトのジュースにホッキ貝と亀の手。
亀の手は鳥取・境港の特産だ。
焼畑農業 焼とうもろこしのスープ
メインの万葉牛のロースト。万葉牛も鳥取の特産品。付け合せはポロねぎと白ポレンタ。
このお皿…初めから割れた形のお皿で、下に敷かれた燻した藁の香りが香りやすい仕組みになっている。
この器は有田・李荘窯さんの作品で、今回の料理フェアのために、李荘窯の寺内信二さんはこのほかに新作を5皿デザインしたという。
今回は、前回の鳩のお皿の柄違いとなる。
3つ目はイタリアと日本。
うなぎと粉 エミリア街道のブロード
野菜の粉はケッパー、にんじん、ライムなど。
うなぎは日本でも蒲焼きとしてよく食べるが、イタリアでもクリスマスなどにポピュラーに食べられる食材らしい。今回は蒲焼きのたれの代わりにバルサミコで煮詰めてある。日本人には、蒲焼きのイメージで食べるとどうみてもイタリア…という楽しさが最もよく感じられる。
4つ目はイタリアの食材へのオマージュ。
Noto 緑オリーブと緑トマト
シチリアの南東に、ノートという町がある。
シラクーサからほど近く、17世紀の地震から立ち直るために再建された町で、当時のバロック様式の建築が南向きの斜面にぎっしり立ち並ぶ、小さいけれど華やかな町だ。
洋二さんはこの近辺で採れるアーモンドなどの食材をミラノで使っているのだそうで、そのオマージュが色濃いひと皿だった。
キタッラをベースに濃いアーモンドクリーム、仕上げにピスタチオ、ケッパー、コーヒー粉。いずれもシチリアの名産品だ。
個人的にはその前の週までずっとシチリアに旅をしていて、Notoも見てきたばかりだった。その余韻を感じさせるパスタだった。
RISTRANTE TOKUYOSHIは、店のコンセプトとして「混成(Contaminata)」を標榜している。
「混成」とはイタリアと日本の「混成」を意味している。
洋二さんが日本語でつける料理の名前には、ときどき謎めいたものがある。
今回の「米ではなくて野菜」もそう。
かつては「魚はあるが形は無い・魚はあるが魚では無い」とか、「3種の決めにくいソース」とか…つまり「Aに見えてB」、「AのようなB」などの”どちらでもない”もの。
「A」と「B」にあてはまるものは何だろう?
もちろん大前提はイタリアと日本。
日本人でありながら、イタリアでイタリア料理を作るという洋二さんの意識があらわれたタイトルなのだろう。
米ではなくて野菜 ミラノ風リゾット ビーフコンソメ
大きさは確かにコメ。食感もコメ…と思いきや、違った。
実は根セロリをコメのサイズに刻み、リゾットにしているのだそうだ。
食感が似ていて口に入れると違うという認識のずれに、肩透かしと納得の感じが混ざる。
日本で日本人として生きる私たちであっても、自分が何者なのか、ゆるぎないよりどころは何なのか、つきつめて考えていくと、そんなものは相対的であり、とてももろいものだということに気づくだろう。
「イタリアで、イタリア人に、イタリア料理を出す日本人」という立ち位置の洋二さんの料理からは、そんなことを考えさせられる。
今回のフェアで書かれていたことばが印象的だった。
「混成とは、新しい何かが生まれる前兆である」。
その覚悟から、これからどんな新しい料理が生み出されていくのだろうか。
Ristrante TOKUYOSHI
Via San Calocero N°3
20123 (Mi)
公式サイト→こちら
予約は→こちら(メールアドレスのリンク有り)
TEL +390284254626
火~土:19:00~22:30
日:12:30~15:00 19:00~22:30
月:定休