なんの味だろう、これは。
甘くない西瓜?
最初は、赤と白のシンプルなキューブだった。
甘く苦い西瓜と、うま味のある冬瓜。
答えは、西瓜にカンパリを染み込ませたもの。
もう一方の、冬瓜に染み込ませてあるのはトマト水らしい。
ニューオータニ東京で8月末に開かれた徳吉洋二さんの料理フェアは、昨年に引き続き、今年で2回目。
徳吉さんは「Ristrante TOKUYOSHI」を2015年にミラノにオープン、現在、ミシュラン1つ星だ。
このイベント期間はミラノの店を閉め、スタッフと一緒の来日という。
今回のコースも昼夜ほぼ共通、夜はこれより2品多い構成だ。
SNACK 3種のスナック
Crostatina melanzana alla parmigiana
・ルチアーナおばあちゃんのクロスタティーナ
Verdure nel sacco trifolato
・フィルムのなかの野菜 トリフォラート
Cucurbitacee
・冬瓜と西瓜
Insalata “Anna” 2017 Maionese di fiori —- succo di pesca
“アンナに贈るサラダ” 2017色々な花のマヨネーズ —- 桃のジュース
Gyotaku —- latte di pinoli
魚拓 —- 松の実のミルク
Ravioli di maiale arrosto —- brodo di tonkotsu
ラビオリ 豚のオーブン焼きの香り —- イタリア風とんこつスープ
Tsukune —- succo di insalata d’arancia
鴨のつくねと鴨のソース —- オレンジサラダのジュース
Nord tra Italia e giappone, erbe tra la monTAGSna ed il mare —- Succo di strudel
蝦夷鹿 北イタリアと北日本 海と山の野菜のソテー —- ステゥルーデルのジュース
Zuppa sostenibilità
ソステニビリティー スープ
Granita di mandorle e capperi, vino ossidato
アーモンドとケッパーのグラニータ 酸化したワイン
Alghe e terrà
海藻と土
料理のアプローチは、昨年とはまた違って感じられた。
今回の徳吉さんの料理の特徴は、2つのものをぶつける瞬発力だ。
2つの食材、2種類のソース、あるいは2タイプの味覚を、1つの器に盛り込む。
最初の「冬瓜と西瓜」からすでに、赤と白、2種類の瓜(ウリ)、2つの味覚、とさまざまな「2つ」を組み合わせる念の入れようだ。
それは王道の組み合わせではなく、どれも、意外な2つを合わせたものばかり。
料理を口にするたびに毎回感じる”新しさ”が、徳吉さんの料理の魅力だ。
魚拓は白と黒。
ミラノの店でも出る、徳吉さんのスペシャリテ。
野菜の炭を混ぜた真っ黒のパン粉を落とすと、中は北海道のマイワシ。
隣には、いまでは徳吉さんの料理のトレードマークになった感のある、おちょこサイズのノンアルコールペアリング。
このイワシには松の実のミルクを合わせる。松の実のこってりした白い色が、黒いイワシと対照的だ。
サラダは薔薇と桃。
ソースが意表を突かれる。
薔薇の香りのマヨネーズ。
薔薇とマヨネーズと桃、関連のない3つのもので一つのストーリーを作る落語の三題噺(ばなし)のように、聞いただけではピンとこなかった組み合わせは、口に入れると納得できた。
薔薇が、ペアリングの桃のジュースの甘味とつながっていたのだ。
薔薇と桃はバラ科同士で親和性があるのか、バラだけだと香りが浮いてしまうところを桃がバランスをとっている。そしてマヨネーズの酸味を、桃の甘みが中和する。
鴨のつくねは鴨とオレンジ。
オレンジソースがポイントだ。
塩の効いた、かなりしっかりした味を、オレンジソースの甘味と酸味が中和する。
鴨にオレンジといえばもちろん、今回の会場であるニューオータニ東京に入るレストラン「トゥール・ダルジャン」で出される鴨のオレンジソースからインスパイアされたもの。
つくねはフォアグラでつなぎ、ソースは鴨を煮詰めた濃いめのもので、鴨の卵黄のソースと2色になっている。
蝦夷鹿は北の野菜と南の野菜。
先日北海道で行われた食のイベント「Dining Out ニセコ」に招聘された徳吉さんが、食材探しで惚れ込んだのが北海道の蝦夷鹿だったそうだ。
ぎりぎりのレアの火入れ。炭火焼のスモーク感が口に広がる。
そのスモーク感と、焼いたカチョカバロの少し焦げた香ばしさが合う。
付け合わせは北日本の海と北イタリアの山の野菜。シーアスパラガスと青菜系の何か。
ソースは野菜のブロードと鹿からとったソースの2種類。
このメインの「2つ」だけは、どれも絶対にガチでいいでしょう!とうなずける組み合わせだ。
ドルチェ2種。
1つめはアーモンドとケッパーのグラニータ。
ケッパーは日本でポピュラーな小さな酢漬けではなく、シチリアの大粒のもの。酸味が少なく、ベルガモットのゼリーとともに、アーモンドの淡い甘さを邪魔しない。
ここに酸化したワインのゼリー。ゼリーだけだと食べられないほど酸っぱいのが、アーモンドと合わせると、不思議に心地よい酸味に変わる。
アーモンドのグラニテは、徳吉さんが自店で使うアーモンドやケッパーを仕入れるシチリア・notoの典型的なドルチェだ。
ドルチェ2つめ。今回のモチーフも土だ。
ミラノの店に伺ったとき、店舗工事で床をはがしたときの土をモチーフにデザートを作っていた徳吉さんの今度の「土」は、ごぼうの土臭い風味だ。
貝の麩菓子の中には、甘く煮た蕗。板ワカメのアイスはぎりぎりの薄味。和に寄った、でも日本の甘味処では出てこないであろう、イタリアのドルチェ。
コース最後に出たスープのテーマは「サスティナビリティ」。
「料理で出した野菜など残りの材料をすべて入れました」。
根菜っぽい香りや鴨のだしなど、今日食べたものを思いださせるパーツが混じり合っている。「すべて入れました」と言われると、食べたばかりのそれぞれの食材が味わい分けられる気がしてくる。
何かと何かをぶつけて起きる味の化学変化の面白さは、何を選ぶかで大きく変わる。
絶対に失敗しないラインで行く方が易しいはずだが、徳吉さんはそれを排除して、より意外性のあるもの、難易度の高いものに立ち向かっている感じがする。
これは、ミラノでも感じたことだ。
2つのものをぶつけて、思いがけない化学反応が生まれると勝ちだ。
合うか外すか、その難しい賭けは、これまでの徳吉さんの経験にもとづく自信が支えているのだろう。
その今まで食べたことのない感じが、料理全体の新しさとなって食べ手に伝わる。
あるいはまた、こうも考えた。
今回使われたコースの、イタリアの食材と日本の食材。地方性を大切にするのがイタリア料理の特徴で、何かを組み合わせて新しいものを生み出すのが日本の特徴だとすれば、ここにも「2つのものをぶつける」という面が見つかる。
ということは、日本とイタリア、2つの発想をひと皿の上で両立させることこそが、「混成(contaminata)」をテーマに据える洋二さんの、現時点での”答え”なのかもしれないと。
Ristrante TOKUYOSHI
Via San Calocero N°3
20123 (Mi)
公式サイト→こちら
予約は→こちら(メールアドレスのリンク有り)
TEL +390284254626
火~土:19:00~22:30
日:12:30~15:00 19:00~22:30
月:定休